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ケッペンの気候分類に Bn 気候など聞いたことないという向きが多いと思う。
乾燥気候(B 気候)は BW 気候(砂漠気候)と BS 気候(ステップ気候)の二つで、さらに細分するにしても、熱帯(高温)h と温帯(冷涼)k を分けて BWh、BWk、BSh、BSk まで。Bn 気候など聞いたこともないと言われるかもしれない。
しかし、ケッペン気候区分の原典に当たると、たしかに Bn 気候 (冷涼熱帯乾燥気候、cool, tropical dry climates)というサブタイプは存在する。
これは冷涼熱帯砂漠(BWn)気候と冷涼熱帯ステップ気候(BSn)の総称で、サフィックスの n はドイツ語の Neben(霧)を表し、霧に覆われることが多いことを示している。
上の図はケッペンの気候分類の補正を行ったトレワーサが書いた教科書にある Bn 気候分布図である*1)。この気候は沿岸を冷涼な海流が流れる地域にあるのが特徴である。
このテーマ「霧の砂漠を~♪」では、チリ北部からペルーにかけて続く南アメリカ大陸西岸の BWn 気候地域の風物を取り上げる。
*1)Trewartha, G.T. (1937): An Indtroduction to Climate, p.277.
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チリの首都サンティアゴの北 400㎞ に位置するラセレナやコキンボなどの都市はアタカマ砂漠の南の入口である。
写真はラセレナの北 30km にあるオルノス湾(南緯 29 度 38 分)で、アタカマ砂漠の海岸部に特有な海霧のために霞んでいる。
ラセレナの気候は年平均気温 13.8 ℃、年降水量 80mm(1991~2020年 平年値)という砂漠気候であるが、その割に植生が密なのはこのような海霧の影響であろう。
ここより北に向かい、ペルー北部まで 3200㎞ にわたって砂漠が続く。
大陸西岸の亜熱帯(中緯度)高圧帯に形成される西岸砂漠あるいは海岸砂漠とよばれるものである。
ただし、霧に覆われるのはこの砂漠の海岸に近い部分のみで、内陸には海霧が届かない砂漠が広くひろがっている。
2003年8月29日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-29 38 4.71, -71 17 15.41 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 8°
PanoraGeo-No.205
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チリ北部にある小都市チャニャラルの海岸である。 チャニャラルは、アタカマ砂漠の入口ラセレナから 400㎞ 北に入った南緯 26 度 20 分にあり、ここまで来るとアタカマ砂漠の核心部に来たといえる位置にある。 アタカマ砂漠というと世界一乾燥したところいうイメージがあるが、この写真はそれとは程遠く、霧に閉ざされた湿っぽい景観である。 遠方の霧の中にチャニャラル市街がかすかに見える。この霧は、ペルーではガルーア(Garúa)、チリではカマンチャカ(Camanchaca)とよばれる海霧である。 フンボルト海流(ペルー海流)という寒流が流れる冷たい海に吹きこんできた大気の下層が冷やされて発生する移流霧である。 南半球の冬を中心とした5月から 11 月ごろまで、このような霧や低い雲が毎日のように発生するが、雨になることはない。 チャニャラル市における平均年降水量は 9.5mm*1) あるいは 15mm*2) にすぎない。 何年かに一度(とくにエルニーニョの時)に雨が降るが、ほとんどの年はまったく雨がないという状況である。
*1) (降水量の実測値) *2) (気候モデルによる平年値)
2003年8月31日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-26 17 44.54, -70 38 37.75 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 162°
PanoraGeo-No.209
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頻繁に海霧に覆われるとはいえ、年平均気温 20 ℃、年降水量が 10mm 前後という極端な砂漠気候のもとでは、特別な場合を除き植物の生育は困難である。
霧が晴れて現れたチャニャラル市街周辺の山地は、ほとんど無植生の岩石砂漠であった。
このような「霧の砂漠」は、ペルー北部の南緯5度付近からチリ北部の南緯 30 度付近の海岸沿いに分布している。
チャニャラルは 19 世紀前半、内陸で見つかった銅鉱の輸出港として成立し発展した町である。
この都市の100㎞ あまり東方にあるポトレリージョス銅山とエルサルバドル銅山はチリを代表する銅産地であるが、前者は1959年に閉山した。
後者は何度も閉山の危機はあったものの、2023年時点では細々と操業しているが、問題は同銅山の鉱山廃棄物(尾鉱)によるチャニャラル湾の汚染である。
写真中段右寄りにある塔は、ミレニアム(千年紀)を記念して 2000 年に完成した銅板張りの観光用チャニャラル灯台である。
2003年9月1日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-26 20 22.68, -70 37 6.55 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 191°
PanoraGeo-No.280
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アタカマ砂漠南部の海岸(南緯26度08分)にあるパンデアスカル国立公園の一部には、写真のような、地面にへばりついた疎らな植生が斑点状に生えている。 南方約 20㎞ のチャニャラル市と同じく年降水量 10mm という極端な砂漠気候にもかかわらず植物の生育が可能なのは、斜面を頻繁に覆う海霧の水分のお蔭である。 このような霧に依存するタイプの植生はロマ植生とよばれ、この写真よりはるかに密で、お花畑のような景観を呈するものまである。 アタカマ砂漠では約 50 地点のロマ植生分布地が報告されている(ロマ植生の分布)が、その分布はチリ海岸山脈の標高0m~1100m に限られており、アタカマ砂漠でも海霧が到達しない内陸部はほとんど無植生である。
2003年8月31日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-26 12 44.53, -70 39 23.24 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 306°
PanoraGeo-No.281
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ペルーの首都リマの北北西 200㎞、ワスカラン国立公園やアンカシ県の県都ワラスなどがあるワイラスの谷への国道が通るフォルタレーザ川の谷の標高 700~750m の斜面に みられたロマ植生である。海岸から40km内陸に位置するが、海霧は谷に沿ってこの付近まで入り込んで来ることがある(写真PanoraGeo-No.286)。 この付近一帯では、この斜面のほかにはこのようにはっきりしたロマ植生は見られないので、霧の水分を吸収しやすい細かい土質など、土地条件がロマ植生の分布に影響している可能性がある。
1986年8月7日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-10 19 46.62, -77 37 34.04 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 91°
PanoraGeo-No.282
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太平洋に迫るペルー・アンデス西麓の標高 500m から下をペルーのコスタ(海岸)地域という。 この地域は年降水量が 20mm に満たない極端な砂漠気候であるが、沿岸を流れるペルー海流(フンボルト海流)という寒流の影響で生ずる海霧や低い雲に覆われる「霧の砂漠」である。 写真はペルーの首都リマの北東方の上空からガルーアとよばれるこの海霧を見下ろしたものである。 頂がよく揃った霧が谷のところでは上流に向かって入り込んでいる。地形から推定すると、この日の海霧の頂の高さは 1000m に近く、この種の霧や雲が発達するほぼ上限である。 それはペルー砂漠におけるロマ植生の分布が0~1000m であることからも裏付けられる(ペルーとチリにおけるロマ植生の分布)。 雨をもたらすこれより厚く高い雲ができないのは、大気が非常に安定していて活発な上昇気流が生じないためである。 海霧を突き抜けた上空は青空で、ワイワシュ山脈の高峰(遠方やや右の白峰)などの 6000m 級の山々が一望できる。
1981年7月9日撮影
カメラの位置 (緯度,経度):-11 55 1.14, -76 56 46.34 (Google Map)
撮影方向:北から時計回り 354°
写真中心位置:-11 39 52.69, -76 58 20.25 (Google Map)
PanoraGeo-No.214
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カヤオはペルーの首都リマの外港として発達した都市。リマ空港もカヤオにある。 両市は、中心地(市庁)間距離約 10km で、市街地が完全につながった連接都市をなし、霧の砂漠の中の巨大都市、人口約1千万(2015年)のリマ首都圏(Lima Metropolitana)を構成している。 リマ空港に着陸する飛行機は、多くの場合、この地方特有の海霧(ガルーア)をくぐり抜けなければならない。 写真は着陸のために高度を下げてきた飛行機からのもので、海霧の切れ目から、カヤオ市ラプンタ(岬)地区の市街や港の一部(左端)、あるいは五角形のレアルフェリッペ要塞などが見えはじめた。 しかし、画面左上、わずか 10㎞ 先にあるはずの空港は霧のために目視できない。
(Google Map) 撮影方向:北から時計回り 60°
PanoraGeo-No.283
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ペルーの首都リマは「霧の砂漠」の中の巨大都市である。 年平均気温 19.6 ℃、年降水量はわずか 2.1mm (1991~2020 平年値)という気候で、エルニーニョなど特別な状況の時以外は雨が降らない。 そのため、庶民が家をつくるとき、煉瓦で外壁と間仕切りをつくり、本格的な屋根はお金が貯まった時ということにすることが多い。 その間、写真の手前の家のように板切れや莚(むしろ)のようなもので仮の屋根をつくって済ます。
1981年7月1日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-11 59 18.95, -77 3 20.17 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 313°
PanoraGeo-No.284
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イーカはペルーの首都リマの南東 260㎞ にある人口 25 万程度の都市。 標高は 400m ほどであるが海岸から 50km 内陸にあるため海霧に覆われることが少なく、地上絵で有名なナスカとともにサニーな(日の当たる)都市といわれている。 しかし時には海霧が達することは、霧の水分で育つロマ植生の分布が報告されていることからも明らかである。 年平均降水量は 10mm ほどで、ほとんどの年は雨が降らない。したがって、庶民が家をつくる場合、本式の屋根づくりは後回しになる。 新興住宅地では、渡した棒の上にナツメヤシの葉のようなものを編んだ莚(むしろ)を掛ける程度の仮の屋根の家が多い。 ただしこの町に年に何度か吹くパラカ(Paraca)とよばれる強風で仮屋根が飛ばされるのを防ぐため、重しとして泥を載せ、時には屋根をガラクタの置き場にもする。 その結果が、写真のような雑然とした景観である。パラカは日射で暖まって低圧になったイーカ台地へ海から吹き込む地方風で、風速 20m 以上にもなり、著しい砂嵐をひき起こす。
1986年8月10日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-14 3 20.91, -75 43 41.32 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 161°
PanoraGeo-No.285
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海霧(ガルーア)がやや高いところに形成され、低い雲となって砂漠を覆うことも多い。 写真PanoraGeo-No.282と同じフォルタレーザ川の谷のほぼ同じ地点であるが、この日は標高約 600m のところに底のある雲で覆われていた。 谷に沿って海岸から 40km あまりのこの地点まで海霧(雲)が入り込んできている。ここで見る限り、岩がちの山の斜面はほとんど無植生であるが、雲の中にはロマ植生が隠されている。 写真手前は谷底の平地で、ここには畑が拓かれ、トウモロコシの収穫が終わって干しているところであった。 トウモロコシはこのように霧に閉ざされる海岸地域から標高 3500m の山岳地域まで最も広い高度帯で栽培される作物である。 斜面の麓には、1㎞ ほど上流からフォルタレーザ川の水をひいた小さな灌漑水路が通っていて、緑の帯ができている。
1981年7月2日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-10 21 48.39, -77 39 13.15 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 153°
PanoraGeo-No.286
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写真 PanoraGeo-No.286 と同じペルー中北部のフォルタレーザ川の谷を標高 1000m 付近まで溯ったところから下流を見た景観である。 遠方にこの谷の下流部を覆っている低い雲の頂の部分が見える。この日の雲は標高 800m あたりまでで、それを抜けた上は、まさに抜けるような青空の世界である。 ここは、ペルーの地理学者ビダル(Javier Pulgar Vidal)が提唱したペルーの8つの自然地域(高度帯)の一つであるユンガ帯(Yunga)である。 ユンガとは先住民のケチュア語で「暑い谷」を意味しており、アンデス西斜面(太平洋側)では標高 500m から約 2500m までの高度帯である。 アンデス山脈の東側斜面の湿潤な河川ユンガ帯(Yunga fluvial)に対して乾燥したこちら側のユンガ帯は海洋ユンガ帯(Yunga maritima)という。 この高度帯の中でも標高の高い部分は若干の降雨があるため灌木林になっているが、低い部分はほとんど雨が降らないのでこの写真のような砂漠である。 上流の降雨地帯から流れて来る外来河川の谷底の平地は農地がひらかれて緑の河川オアシスになっている。海洋ユンガ帯ではオレンジなどの果樹の栽培が盛んである。
1981年7月2日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-10 15 50.90, -77 34 52.85 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 219°
PanoraGeo-No.287
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