直前のページに戻る    

アメリカ大陸最初の人類に関する論争について

アメリカ大陸への人類の到来時期と経路などに関する論争を反映してか、 これに密接な関係のある「セラダカピバラ国立公園」についてのWikipediaの記述は、言語ごとに相当 な違いがある。英語版が極めて淡白な記述なのは、アメリカ合衆国に旗色の悪い旧説の支持者の多いためか。 これに対して、フランスやドイツなどのものは、新説を支持するような資料の 紹介がめだつ。日本語版は?・・・お恥ずかしい限り。(2019年121月末現在)。ここでは、 Wikipediaドイツ語版 の一節を翻訳して紹介する。

最近の方法による出土品の年代測定(Datierung von Fundstücken mit neuesten Methoden)
 セラダカピバラ国立公園の遺跡での出土品が非常に古い年代のものであるという測定結果については、 2016年まで論争がつづいていた。アメリカ大陸における人類の居住に関して一般に 認められていた説とこの測定結果は両立しないものだからである。 ブラジルの女流考古学者でセラダカピバラ研究の第一人者(下線部は訳者注:以下同じ) ニージ・ギードンNiède Guidon氏は、 すでに、この公園の岩絵が有名なクローヴィス文化の遺跡(アメリカ合衆国ニューメキシコ州に ある遺跡、約13000年前)よりはるかに古いもので、その岩絵の下で、たき火が 焚かれていたという状況を想定していた。しかし多く学者はその情報を真面目に 受け取ろうとはしなかった。その種のアメリカ合衆国の学者は、ギードン氏が使った年代決定法は、 おそらく時代遅れのもので、現代の西洋における基準には合わないと断じた。また、これらの学者は、 さまざまな言い方ででギードン氏の意見に反駁した。たとえば、彼女が言う火は人類がおこしたもの ではなくて自然に発生した野火ではなかったのかとか、サルが火をつけた可能性が考えられるとかいう 反論である。しかし、今日、これら大多数の人の考え方とは反対の、以下のような状況が現れてきた。
 パリ・ナンテール大学のエリック・ボエーダEric Boéda氏は、6000個の炭の破片を分析した結果、 火が燃えていた穴が、長期間同じ場所だったことを確かめた。炭の破片は、上へ上へと積み重なっており、 野火のように広く散らばってはいなかった。したがって、火は人間によって点けられたものに違いない。 炭を年代測定した結果は22000年前であり、これはクローヴィス説において人間が初めて アメリカ大陸に入ったという年代より10000年早い。アメリカの先史時代の年表を完全に書き換える ことになるこの見解を擁護しようとする研究者がさらに出てきた。ボルドー・モンターニュ大学の地球物理学者 クリステル・ラーエChristelle Lahaye氏は、以前、岩壁の下で見つけた石器を年代測定したいと思ったが、 石でできたもののため、それは叶わなかった。しかし現在では熱ルミネッセンス法という 年代測定法を使うことができる。この方法では、石器が横たわっていた土層が最後に光を浴びて (すなわち上位の土層に覆われて)以降現在までの経過時間を決定できるので、土層の中の石器の 最少年齢、すなわち、少なくとも何年前かということがわかる。 ボルドー大学による資料の分析の結果、その石器は少なくとも30000年前のものであることがわかった。 この結果に対する反論は今のところ出ていない。これらの論文が出た2016~18年をもって、 人類のアメリカ到来時期に関する論争は決着したとみられる。
 こうして、ギードン氏には、年代がはっきりした最初のアメリカ人類は、ブラジルに住んでいた という自説が正しいものと思えるようになってきた。ドイツ考古学研究所のマルクス・ラインデル Markus Reindel氏は、現在では砂漠状態で生活が困難にみえるこの地方へやって来て、さまざまな 深さから土壌を採取して分析した。粉塵や花粉など、堆積物が示す地学的記録から、 さまざまな時代の環境状況を再現できた。それによると、2万~3万年前、ここには水や食物が豊かな 花いっぱいの景観がひろがっていたことがわかった。その証拠に、ゾウの原始形である9トンの マストドンや、サーベル状の爪を持ったトラ、あるいは巨大なナマケモノなどの骨もでてきた。
 3万年以上前にここにいた最初のアメリカ人の起源に関して、ギードン氏は、1600海里へだったった アフリカからやってきたと考えている。西アフリカから南アメリカへ向かう南赤道海流の東から西への 流れは貿易風によっても助長される。トール・ヘイエルダールThor Heyerdahlという探検家は、 パピルスで造ったボートで、このコースを容易にたどることができることを証明した。 さらなる証拠として、アンデスの方向にある山脈では、ボートをあらわすような岩絵がみつかている。 それに加えて、カピバラ山地では、アフリカ人の特徴をもった古い頭蓋骨も出土し、アフリカの 寄生虫を含んだ数千年前の古い糞石(糞の化石)が複数の研究者によって発見されている。
(テーマ 33:ピアウイ州とセラダカピバラ国立公園 P.13 で使用) 直前のページに戻る