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32. ダイヤモンド筑波で人気の
小貝川母子島遊水地、その真価は?

母子島遊水地地図

母子島(はこじま)遊水地(上図の緑の部分)は、JR水戸線下館駅の南方約5㎞ 、 最寄り駅の関東鉄道常総線黒子駅(愛称:ダイヤモンド筑波駅)から約2㎞にある。

平常時の母子島遊水地 平常時の母子島遊水地  (説明を読む)
PanoraGeo No.593


小貝川洪水時の母子島遊水地 小貝川洪水時の母子島遊水地  (説明を読む)
PanoraGeo No.592
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小貝川 母子島遊水地 1 /18 前の画像へ 次の画像へ
小貝川と筑波山

静かな流れの小貝川と遠くからも目立つ筑波山

The Kokai River in a quiet stream
and Mt.Tsukuba standing out from a distance

 このテーマである茨城県西部の筑西市、母子島(はこじま)遊水地から 20㎞ ほど南に行った付近を南流する小貝川である。 対岸(東岸)がつくば市、手前(西岸)が常総市である。この付近では、小貝川が昔の常陸国と下総国の境界で、対岸が常陸、手前が下総であった。 平常時の小貝川は、この写真のように、濁った水を静かに流す穏やかな川であるが、これまでに何度も大水害を起こしたことがある。 2015 年9月の東北・関東豪雨の際も、この川の氾濫が第一に心配された。 しかし西を並行して流れる鬼怒川の方で越水と決壊が発生し、両河川の間の幅2~4㎞ の低地約 40 平方キロが浸水する大災害となった。いわゆる常総水害である。
 右遠方に見える筑波山は、日本百名山で最も低い山であるが、関東平野の東の端にある孤立峰なので、江戸(東京)からもよく目立つため、昔から「西の富士、東の筑波」と並び称されてきた。 筑波山はさまざまな方向から特徴のある形で眺められるが、この写真は、南南西の東京から見た筑波山とほぼ同じ姿である。 二つの峰がある双耳峰で、左(西)が男体山、右(東)が最高点 877m のある女体山である。
 写真は、2014 年、圏央道の小貝川橋を建設中の時のものである。圏央道のつくば中央~境古河間は、 水害や地盤の悪さなどが原因で建設が予定よりだいぶ遅れ、2017 年2月末に開通した。

2014年5月4日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 4 40.71,+140 0 15.66 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 14°

PanoraGeo-No.448

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西から見た端正な筑波山

西から見た端正な筑波山

Neat and tidy Mt.Tsukuba viewed from the west

 筑波山は、さまざまな方向から、それぞれ個性ある姿を望むことできる。 写真は、西方の筑西市南部にある母子島(はこじま)遊水地の堤防から、増水した小貝川越しに望んだ筑波山である。 ほぼ東西に並ぶ双耳峰が接近し、右から、男体山(871m)、女体山(877m)、そして筑波山第三の山頂とも言われる坊主山(710m)が等間隔に並んでいる。 左右の山腹斜面がほぼ同じ角度で下降する対称形の山容が美しい。 つくば地域の図柄入り自動車ナンバープレートの図柄として、アンケートの結果、右に示したような、このアングルの筑波山が選ばれている。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 44.45, +139 59 42.39 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 107°

PanoraGeo-No.449

Number Plate of Tshukuba area

つくば地域のナンバープレート
上:寄付金付き、下:同なし

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母子島遊水地池畔で「ダイヤモンド筑波」を待つカメラマンたち

母子島遊水地池畔で「ダイヤモンド筑波」を待つカメラマンたち

Photographers waiting for Diamond Tsukuba at the pondside of Hakojima-Yusuichi Retarding Basin

 茨城県筑西市(旧下館市)にある母子島(はこじま)遊水地から望む筑波山は、その整った山容に加えて、「ダイヤモンド筑波」という絶景を楽しませてくれる。 1年に2回、筑波山の頂上から出る朝日がダイヤモンドのように輝く光景は、有名な「ダイヤモンド富士」に勝るとも劣らない絶景である。 ダイヤモンド筑波の人気は年ごとに高まりつつあり、2019 年2月 14 日の早暁には、厳寒にもかかわらず、筑西市企画課の調べで 650 人というカメラ愛好家が母子島を訪れている。 このイベントに対する筑西市の力の入れようはたいへんなもので、スープや缶コーヒーの無料サービス、仮設トイレの設置、市営の入浴施設の早朝開業と入浴券(大人 700 円)の無料配布、近くの常総線黒子駅からの送迎バスの運行などなど、至りつくせりのおもてなしである。 写真やや左遠方の高い建造物は、母子島遊水地の水を制御する田谷川水門。

2019年2月14日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 28.42, +139 59 27.14 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 160°

PanoraGeo-No.450

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ダブル・ダイヤモンド筑波出現!

ダブル・ダイヤモンド筑波出現!

This is the Double Diamond Tsukuba!

 2019 年2月 14 日、午前6時 56 分、茨城県筑西市の母子島(はこじま)遊水地で見られたダイヤモンド筑波である。 池の水面に映って、ダイヤのように輝く太陽が二つ見えるので、ダブル・ダイヤモンド筑波という。 少しでも風があると池の水面にさざ波がっ立って、きれいなダブルにはならない。 無風快晴という近来にない好条件に恵まれたこの日のダイヤモンド筑波は、翌日の地方紙の第一面を飾るに十分なネタであった (2019 年2月 15 日の茨城新聞の記事は こちら)。

2019年2月14日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 28.26, +139 59 27.12 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 120°

PanoraGeo-No.451

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母子島遊水地の桜

母子島遊水地の桜

Cherry blossoms in Hakojima-Yusuichi Retarding Basin

 「ダイヤモンド筑波」で知られる母子島遊水地では、桜並木がもうひとつの観光資源になりつつある。 1991 年に遊水地が完成したあと、この池(初期湛水池という)周囲と遊水地に接する旭ヶ丘集落のまわりに 290 本の桜が植えられた。 同じ小貝川沿岸で有名な福岡堰(つくばみらい市)の桜にはまだ及ばないが、母子島の桜も約 30 年たってかなり見栄えするようになってきた。 遠景の筑波山は、春がすみの筑波と言えば優雅であるが、実際には黄砂で霞む筑波山である。

2021年3月30日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 25.45, +139 59 27.22 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 108°

PanoraGeo-No.590

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母子島遊水地の初期湛水池

母子島遊水地の初期湛水池

Primary Water Pond of Hakojima-Yusuichi Retarding Basin

 ダブル・ダイヤモンド筑波を映し出すこの水面は、2ヘクタールにも満たない小さな池である。 多くの人はこの池を母子島(はこじま)遊水地と思っているようであるが、それは正しくない。 母子島遊水「地」であって母子島遊水「池」でないことから推察されるように、母子島遊水地の大部分は、平常時は水面ではなく陸地である。 筑波山を映すこの水面は、母子島遊水地(約 160 ヘクタール)のごく一部で、初期湛水池とよばれるものである。 初期湛水池は現在の水面とその向こうの並木より手前の、ふつうは水のない予備的部分からなっている。 初期湛水地は、小貝川が洪水になり水門が閉じられた際、排水できなくなった遊水地の雨水を貯めるためのものである。 母子島遊水地の仕組みについては 母子島遊水地計画図を参照されたい。

2018年5月25日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 24.96, +139 59 27.12 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 92°

PanoraGeo-No.452

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平常時には水がない小貝川母子島遊水地

平常時には水がない小貝川母子島遊水地

Hakojima-Yusuichi Retarding Basin with no water in normal times

 小貝川右岸に造られた母子島(はこじま)遊水地を北東隅から南(小貝川の下流方向)を向いて撮った写真である。 画面左から中央にかけて緑の小貝川堤防が走り、それより右の、送電線鉄塔や畑、水田などがあるところはすべて遊水地である。 このように、遊水地は平常時には水が貯まっておらず、農業その他に利用できる土地である。 堤防の一部に黒っぽい茶色の階段になっているところがあるが、これは堤防のほかの部分より一段低く造られた越流堤である。 小貝川の大洪水の際には、水位が堤防いっぱいまで上昇する前に、ここから自動的に川の水が遊水地に流れ込み、一時的に貯えられる。 その分だけ小貝川の流量が減って、下流での氾濫が防がれる。この遊水地には最大 500 万立方mの水が貯えられる。 はるか遠方、送電鉄塔の脚の間に小さく見える四角い建物が田谷川水門で、洪水が収まるとこれを開いて水を川に戻す。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 16 6.09, +139 59 42.42 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 179°

PanoraGeo-No.453

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蛇籠(じゃかご)タイプの頑丈な母子島遊水地の越流堤

蛇籠(じゃかご)タイプの頑丈な母子島遊水地の越流堤

Strong-duty overflow bank of Hakojima-Yusuichi Ritarding Basin of "jakago" (gabion) type

 筑波山を背景に、母子島(はこじま)遊水地の越流堤の内側(川裏=小貝川と反対側)に近づいてみた写真である。 大増水時の川の水が遊水地に流れ込む越流堤は、越流する水の力に耐えるように頑丈につくられている。 ふつうの堤防は、川の水が溢れて乗り越える状況になった場合、いとも簡単に削られて破堤しやすいことは、2019 年 10 月台風 19 号の豪雨の際に千曲川など多くの川で起きた通りである。 日本のおもな遊水地の越流堤はアスファルトやコンクリートで補強されているが、母子島遊水地のものはかごマット工法というユニークな造り方を採用している*1)。 川の工事などには、金網や竹を編んだ籠に大きな石をたくさん詰めた蛇籠(じゃかご)が従来から使われてきたが、かごマットは、これを改良し、マット状にした金網蛇籠である。 鎧で身を固めたような厳しい容姿が印象的である。

*1) 末次忠司・日下部隆昭(2003): 河道計画立案研究展望、水利科学、47(3)、1-30 の P.16、表2。

(Google Map)  撮影方向:北から時計回り 114°

PanoraGeo-No.454

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他の部分より2m 低い母子島遊水地越流堤

他の部分より2m 低い母子島遊水地越流堤

Hakojima-Yusuichi Retarding Basin Overflow Bank 2 m lower than other parts

 遠景の左は筑波山、中央の左の峰が近年ハイカーに人気が出てきた宝篋山(ほうきょうさん)で、中景は小貝川母子島遊水地の越流堤の川裏(かわうら、川と反対側の)斜面である。 この川裏斜面はかごマット(マット状の金網蛇籠)を階段状に積み上げて造られている。 写真の左端の高い部分は普通の堤防であるが、越流堤との接合部分だけは、強い越水の流れに耐えうるよう、かごマットで覆って補強してある。 かごマットは厚さ 50cm と規格化されているので、枚数を数えれば越流堤の高さなどがわかる。 それによれば、この越流堤は6枚なので高さ3m、また、普通の堤防より4枚、すなわち2m低く造られていることがわかる。 近景の右端には「小貝川 55.0㎞」と表示されたキロ杭(河川距離標)が立っている。 55 ㎞は河口(あるいは本流との合流点)、すなわち利根川との合流点からの距離と考えるのが普通であるが、そうではない。 この数値は小貝川の中でも下館河川事務所が管理している区間だけの距離を示しており、起点は取手市の藤代駅に近い常磐線鉄橋である。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 47.64, +139 59 40.04 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 130°

PanoraGeo-No.595

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母子島遊水地越流堤の川裏斜面

母子島遊水地越流堤の川裏斜面

Landside slope of the overflow bank of Hakojima-Yusuichi Retarding Basin

 母子島遊水地の越流堤の川と反対側の斜面(専門的には川裏法面<かわうらのりめん>という)である。 マット状の金網蛇籠(かごマット)でできた越流堤は、上から見ると、金網の錆のために、このように赤く見える。 一般に、洪水が堤防から溢れる、すなわち越水が生じた場合、川裏の斜面を勢いよく流れ下る水によって、斜面やその麓が侵食されて堤防が決壊することが多い。 そのため、越流堤も川裏斜面の侵食防止にさまざまな工夫が施されている。 母子島遊水地では、小貝川側の川表(かわおもて)斜面は、かごマットを平張りしたスロープタイプであるが、川裏斜面は、勾配 1:4(高さ1に対し水平4)という緩やかな階段にして水勢を削ぎ、麓には、かごマットを張ったプールやプラットフォームをつくって、洗堀を防いでいる。

2021年3月30日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 44.55, +139 59 42.12 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 7°

PanoraGeo-No.594

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洪水時の母子島遊水地越流堤

洪水時の母子島遊水地越流堤

Overflow Bank of Hakojima-Yusuichi Retarding Basin during flood time

 2019 年 10 月の台風 19 号直後の母子島遊水地越流堤の状況である。 雨台風として千曲川など関東甲信越各地で水害をもたらしたこの台風の中心は、12 日 22 時半前後に、この付近を通過した。 写真右が、この台風の豪雨で増水し、高水敷まで水に浸った小貝川の水面である。 左側の越流堤のふもとにある水面は、越流水の勢いを削ぐためにつくられたプールである。 ここにたまっている水は小貝川の越流水ではなく、越流堤の内側(川と反対側の川裏)に降った雨水である。 1991 年の完成以降、この越流堤を越えて小貝川の水が遊水地に流入したことはないが、この台風でも辛うじて越流は起こらなかった。 この写真は、小貝川の水位が最も高くなった 13 日朝7時ごろから6時間ほどたち、水位が最高から60cmほど下がった時のものである。 越流堤の小貝川側(川表<かわおもて>)の斜面を見ると、水面に接して赤く錆びた蛇籠を覆う白い物質がある。これは増水した小貝川を流れて来てたまった枯れ草である。 その一番高いところまで水位が上がったわけで、あと 20㎝ ほど増水すれば越流が始まるというギリギリの状態だったことがわかる。 この台風における小貝川の水位変化に関する資料は こちらを参照されたい。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 44.41, +139 59 42.29 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 3°

PanoraGeo-No.455

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一部分が浸水した母子島遊水地

一部分が浸水した母子島遊水地

Partly flooded Hakojima-Yusuichi Retarding Basin

 2019 年 10 月 12-13 日の台風 19 号の豪雨では、小貝川の水位は、母子島遊水地の越流堤を越える水準には達しなかったが、遊水地の一部が浸水した。 水位が上昇した小貝川の水の逆流を防ぐために水門が閉じられ、遊水地内に降った雨水の排出ができなくなったための内水氾濫である。 遊水地で最も低いところにあり、ダイヤモンド筑波の撮影スポットとして有名な池(初期湛水池)に内水が収まりきれず、その周辺一帯の農地が浸水した。 写真では、左右に並ぶ桜並木より向こうの水面が満杯になってしまった初期湛水池で、手前の水面は農地である。 写真中央部に一部が水没を免れた駐車場がみえるが、そこへ通じる道路は水の中で、どうしたのか、車が一台水に浸かっている。 泥水でないことからも、この水が小貝川から溢れてきた「外水」でないことがわかる。 このような内水氾濫を防ぐには、水門と共に排水機場を設置して、水位の高い本流に内水を強制的にポンプアップするのが常道である。 しかし、ここは遊水地で、そのような時に水を貯めておくことが本来の目的なので、当然、排水機場は存在しない。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 17.69, +139 59 24.58 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 25°

PanoraGeo-No.456

PanoraGeo-No.669

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増水時の小貝川・大谷川合流点

水害が起きやすい地形の小貝川・大谷川合流点

The confluence of the Kogai River and the Otani River in a topography prone to flood damage

(はこじま)遊水地は、ここで合流する大きな小貝川と小さな大谷川(おおやがわ)に挟まれた低地にある。 写真は、左から小貝川、右うしろから大谷川が来て合流する地点であるが、2019 年 10 月 12-13 日の台風 19 号の直後なので両河川が増水し、河原(高水敷)は完全に水没している。 遠方に見える青いアーチは、水資源機構の霞ヶ浦用水の小貝川水管橋である。霞ヶ浦から筑波山に掘られたトンネルを通して、この付近およびさらに西の猿島(さしま)台地まで灌漑用水や都市用水を送っている。 その向こうには小貝川の代表的水位観測地点である黒子橋がかすかに見える。
 このような大小の川が合流する場所では川が氾濫して水害が起こりやすい。 また、小貝川はこの付近で勾配が 2/1000 から 0.2/1000程度へと急に緩やかになっている(参照:小貝川の縦断面図)。 このように川の勾配が急減するところや川幅が狭まるところ、あるいは堰やダムがあるところなど、流れの障害になるものがあるすぐ上流(背後)では、増水時に水位が異常に高くなって氾濫しやすい。 このような現象はバックウォーター(背水)と呼ばれ、その影響を受ける区間を背水区間という。 母子島遊水地付近はまさに小貝川の背水区間である。ここでは遊水地ができる以前、第二次大戦後だけでも、1950年、58年、61年、81年、82年、そして86年と、頻繁に水害が発生している。 とくに母子島遊水地建設のきっかけとなった 1986 年の水害は激甚災害に認定されるほどひどいものであった(参照:1986 年8月台風 10 号による小貝川の氾濫)。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 17.34, +139 59 36.06 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 133°

PanoraGeo-No.457

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母子島遊水地の田谷川水門

母子島遊水地の田谷川水門

Tayagawa Water Gate of Hokojima-Yusuichi Retarding Basin

 向こうに見える高い建造物は母子島遊水地の水を制御する田谷川水門である。 水門は遊水地内を流れる小川(田谷川)の出口にあり、小貝川が増水した時に河水が田谷川に逆流して来るのを防ぎ、 また、大増水で越流堤を越えて遊水地水が流れ込み貯まったばあい、それを小貝川の洪水が収まるまで止めておく働きをする。
 現在では、このようなしっかりした堤防と水門によって小貝川とその沿岸の低地は隔てられているが、 むかしの堤防は低く、田谷川の出口近くには水門はおろか堤防もなかった(参照:遊水地建設以前の写真。 したがって小貝川の増水時にはここから水が侵入し、そこにあった母子島、飯田、一丁田、椿宮、小釜などの集落が水浸しになった。 1986年の大洪水では川沿いの堤防を乗り越え水が流れ込む越水が各所で発生し、水の回りが早かったため、多くの住民は逃げ出す暇さえなかったという。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 17.82, +139 59 23.10 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 103°

PanoraGeo-No.458

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小高い台地につくられた旭ヶ丘集落

小高い台地につくられた旭ヶ丘集落

Asahigaoka Settlement built on a low upland

 母子島(はこじま)遊水地のユニークなところは、遊水地の一角に張り出した低い台地にあるこの旭ヶ丘集落である。 これは小貝川と大谷川の間の低地にあった五つの集落 109 戸の人たちが移住してきてできたニュータウンである。 その敷地は、遊水地の一角を高さ5mほど盛り土して造った台地なので、写真のように遊水地が浸水することがあっても安全である。 手前の浸水している部分は、かつての母子島集落(32 戸)があったところである。 住民と行政が話し合い、住民が先祖伝来の土地を遊水地に提供して集団移転するという例はきわめて稀である。 住民は水害の恐れのない住処(すみか)を得、ここより下流の人たちは遊水地のお蔭で水害の恐れが軽減されるという、究極の水害対策である。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 18.36, +139 59 20.16 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 339°

PanoraGeo-No.459

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母子島遊水地内の飯田集落跡

母子島遊水地内の飯田集落跡

Ruins of the Iida Settlement in Hakojima-Yusuichi Retarding Basin

 小貝川の堤防の上から北西方の母子島遊水地中央部を望むと、手前に、かつてここにあった飯田集落の跡地が見える。 飯田集落は遊水地をつくるために移転した五つの集落のひとつである。現在の跡地には人家はなく、わずかに防風林などの木立が残るだけである。 遊水地の大部分は低地でかつては水田になっていたが、このごろは水を張らずに大豆などを栽培しているところが多い。 しかし飯田集落があった場所は小貝川に沿う自然堤防で、水田のところよりわずかに高い。今でもかつての住民がネギやその他の野菜をつくる畑に利用している。 遠方の桜並木の向こうには、ここから移住した人たちが住むニュータウン旭ヶ丘の家々の屋根が見える。

*1)の出典:下館工事事務所監修・発行(1991): 小貝川激特事業の記録-- いま刻まれる、新しい地への旅立ち p.6-7 の写真の一部

2021年3月30日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 36.41, +139 59 43.98 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 293°

PanoraGeo-No.591

集団移転する前の飯田集落

集団移転する前の飯田集落(写真中央)*1)
左端の小川が田谷川。小貝川増水時の逆流を防ぐ水門も堤防もない。

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環境協定で整った町並みの旭ヶ丘集落

環境協定で整った町並みの旭ヶ丘集落

Asahigaoka Settlement in the organized townscape arranged by the environmental agreements

 母子島遊水地建設の一環としてつくられた旭ヶ丘集落は、盛り土の上に造られた 14.4 ヘクタールのニュータウンである。 地盤は厚さ約5m の沈下が起きにくい礫質土からなり、表面 50cm ほどは植物などを植えやすい砂質土でおおわれている。 町のレイアウトでは、十字路の北東の土地を鬼門として嫌がる土地柄を考慮して、十字路は一カ所だけで、あとの交差点はすべて三叉路という気の使いよう。 唯一の鬼門の土地は集落センター集会所になっている。 明るく住みやすい街づくりを目指して、住民の間で環境協定が結ばれた。 将来近所に迷惑を及さないよう、大木になる樹種や竹林は植えない、塀や生け垣の高さは 道路面から 1.8m 以下、家屋の軒は道路から1m 以上離す、塀は道路から 30cm 空け、そこに草花を植えるなどなどである。

2019年10月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 15 40.80, +139 59 12.78 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 2°

PanoraGeo-No.460

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利根川中流部沿岸低地の水屋(みずや)

利根川中流部沿岸低地の水屋(みずや)

"Mizuya" (Raised hut) in the lowland along the middle Tone River

 埼玉県加須市北川辺地区、利根川と渡良瀬川にはさまれた低地にのこる水屋(みずや)とよばれる建物で、輪中集落など、堤防に守られた低地の集落に、かつては、よく見られたものである。 土を盛り上げた地盤の上に建てられた納屋のような建物で、堤防が切れて浸水が生じた際、逃げ込む避難所であるとともに、非常時の食料や器具(たとえば小舟)などを格納してある。 堤防だけに依存しない水害対策である。 地盤を盛り上げ集落をつくったこのテーマの母子島遊水地の移住地、旭ヶ丘集落は、現代版の大規模水屋と言えるかもしれない。

1983年撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+36 11 15.41, +139 40 8.54 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 205°

PanoraGeo-No.461

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Uploaded on October 22, 2019; Revised and supplemented on April 28, 2021