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37. 熱帯のユニークな山と丘:熱帯の地学(2)
Unique Mountains and Hills of the Tropics: Tropical Earth Science (2)

ブラジル、リオの岩山、パンデアスーカル
A.ブラジル、リオの岩山、パンデアスーカル
 地形学ではボルンハルトというが
 シュガーローフともよばれる地形
 


B. 本物のシュガーローフ
   (砂糖の塊)

<b>ハーフオレンジ</b>という地形<br> <b>サプロライト丘</b>ともいう。
C. ハーフオレンジという地形
 サプロライト丘ともいう。


D. オレンジ半分(実物)

シュガーローフとハーフオレンジ、その名の由来

Sugarloaf and Harf Orange, the origin of the name

A) ブラジル、リオデジャネイロ市のランドマークである岩山、パンデアスーカル(Pão de Açúcar)。 砂糖の塊(かたまり)という意味で、英語ではシュガーローフ(Sugarloaf)という。 この写真のようにボタフォーゴ湾の北西岸から見ると、本物の砂糖の塊によく似ている。
 カメラの位置 (緯度,経度):-22 56 36.43, -43 10 24.57 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 109° 1981年3月3日撮影
B) 精糖後の白砂糖の塊。19世紀後期頃にグラニュー糖や上白糖のような粒状の砂糖が導入される以前の 白砂糖は、型に入れてこのような円頂円錐形の塊に固めて売られていた。これを英語でシュガーローフ(Sugarloaf)、 ポルトガル語ではパンデアスーカルという。ローフ(Loaf)はおもにパンの塊をいうが、ミートローフという例のように、 さまざまなものの塊に対しても使われる。
 写真の出典:Wikipedia英語版 ( https://en.wikipedia.org/wiki/Sugarloaf)2020/7/25閲覧
C) ペルナンブコ州南部の丘陵地に見られる円頂丘。半分にしたオレンジのような形なので、 地形学ではハーフオレンジとよぶ。
 カメラの位置 (緯度,経度):-8 33 46.18, -35 12 35.16 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 154° 1996年8月29日撮影

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ボルンハルトという地形の典型、リオのパンデアスーカル

ボルンハルトという地形の典型、リオのパンデアスーカル

Pão de Açúcar(Sugarloaf)of Rio, the model of the landform of bornhardt

 巨大なキリスト像があるコルコバードの丘から東方を望んだ景観で、眼下のヨットが多数浮かぶボタフォーゴ湾の向こうに見える突出した岩山は、リオデジャネイロを訪れた観光客なら必ず登るパンデアスーカル(Pão de Açúcar、ポンジアスーカルとも発音、標高 396m)である。 その手前に重なるやや平たい岩山はウルカの丘で、パンデアスーカルのロープウェーは、下からここまでが第一段、ここで乗り換えて頂上に向かうことになる。 パンデアスーカル、ウルカの丘、あるいは写真の右端にあるバビロニアの丘などのような急な岩壁に囲まれたドーム状の岩山のことを、地形学ではボルンハルト(Bornhardt)という。 ドーム状インゼルベルク、花崗岩ドーム、モノリシックドームなどさまざまな呼び名がある。 パンデアスーカルはこの地形の代表的存在なので、ボルンハルトのことを、パンデアスーカルを英訳したシュガーローフ(Sugarloaf)ということもある。

2007年9月13日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-22 57 7.31, -43 12 37.60 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 91°

PanoraGeo-No.515

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リオデジャネイロ、植物園から見上げるコルコバードの丘

リオデジャネイロ、植物園から見上げるコルコバードの丘

Corcovado Hill from the Botanical Garden in Rio de Janeiro

 パンデアスーカルと並ぶリオのもう一つのランドマークであるコルコバードの丘を、その直下にある植物園(Jardim Botânico)から見上げると、標高 710m という高さと、比高約 400m ある岩壁の険しさが際立って見える。 この岩山もパンデアスーカルと同様、ボルンハルトという地形である。 ボルンハルトは世界のさまざまな気候条件のところで目にするが、圧倒的に多いのは湿潤熱帯(熱帯雨林気候~サバナ気候地域)である。 ボルンハルトができやすいその他の条件としては、地殻変動の少ない楯状地で花崗岩や片麻岩などの結晶質岩からなることなどがある。 パンデアスーカルやコルコバードの丘などのリオの岩山は、硬く割れ目(節理)の少ない片麻岩からなっている。

1980年2月2日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-22 58 8.10, -43 13 25.33 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 42°

PanoraGeo-No.528

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多数のドーム状の岩山(ボルンハルト)の間にひろがるリオの市街

多数のドーム状の岩山(ボルンハルト)の間にひろがるリオの市街

City of Rio stretching between numerous domed rocky mountains (bornhardt)

リオデジャネイロ州グアナバラ湾の湾口上空からリオデジャネイロ市の南部を望むと、多数の岩山がそびえ、その間の低地を埋めるように市街地がひろがっている。 岩山はすべてボルンハルトという地形である。画面左端にパンデアスーカル(396m)、その向こうに、頂に建物があるウルカの丘(220m)とバビロニアの丘(238m)、 その右にサンジョアンの丘(242m)とやや高いカブリトスの丘(298m)、遠方には二つの頂をもつことから二人兄弟という意味の名をもつドイスイルモンスの丘(533m)、右端にはやや霞んで巨大なガーベアの岩(844m)が見える。 平原に多数の岩山(ボルンハルト)がそびえるところをボルンハルトフィールドとよぶが、リオは海のボルンハルトフィールドと言えるかもしれない。 写真の左端の弧状の砂浜は有名なコパカバーナビーチ。半世紀近く前の写真であるが、リオの自然と街並みの美しさに変わりはない。 2012年に世界文化遺産に登録された「リオデジャネイロ:山と海との間のカリオカの景観群」である。

1972年12月15日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-22 55 46.64, -43 8 51.99 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 228°

PanoraGeo-No.529

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エスピリトサント州北部のボルンハルトフィールド

エスピリトサント州北部のボルンハルトフィールド

Bornhardt field in northern Espírito Santo State

 頂上の円い岩山(ボルンハルト)が多数密集してそびえる原野をボルンハルトフィールドといい、その大規模なものがアフリカ、オーストラリア、インド、南アメリカなどの花崗岩からなる侵食平野に発達している*1)。 写真はそのようなものの一つで、ブラジル南東部、エスピリトサント州の花崗岩地帯に見られるボルンハルトフィールドである。 ボルンハルトの形成プロセスは一通りではないが、もっとも一般的なプロセスは次のようなものである: 岩盤が地下深くまで風化され厚いルーズな風化層が形成される過程で、もし一部に風化されにくい岩盤があると、その部分だけ新鮮な硬い岩盤が浅いまま残る(参考:ボルンハルトの形成と崩壊の図の状態)。 そのような土地が隆起して侵食を受けるようになると、風化層は容易に取り去られるが、新鮮な岩盤は侵食されずに高く残ってボルンハルトになる。 このように岩盤が地下深くまで風化される深層風化という現象が最も顕著に起こるのは高温で水分に富んだ湿潤熱帯である。ボルンハルトが湿潤熱帯に多いのはそのためである。

*1) Thomas, M. F. (1974): Tropical Geomorfhology (Macmillian), p.165.

1996年8月18日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-18 43 26.57, -40 44 26.67 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 314°

PanoraGeo-No.530

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バイア州南部の背の高いボルンハルト、ペスコーソの岩山

バイア州南部の背の高いボルンハルト、ペスコーソの岩山

Pedra Monte Pescoço, a tall bornhardt in southern Bahia

 ブラジル、バイア州南部の海岸平野にあるイタマラジュ市の郊外には、岩山(ボルンハルト)が密集してそびえる小規模なボルンハルトフィールドがある。 その中でひときわ目立つボルンハルトが、この写真で雲を突いてそびえるペスコーソの岩山(Pedra Monte Pescoço)である。 石英閃緑岩の一枚岩からなり、山腹の岩壁の高さは 400m くらいある。 このような背の高いボルンハルトが形成されるためには、かなり長期間、地盤が安定し湿潤で高温な気候が続く必要がある。 すなわち、参考図ボルンハルトの形成と崩壊の図の風化層(レゴリス)が侵食で取り去られるだけでなく、その後時間をかけて地表面が低下し、 それに伴って風化基底面が低下する(深層風化が進行する)という、図から図に至るようなプロセスが必要である。

1981年7月22日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-16 55 4.65, -39 32 12.01 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 208°

PanoraGeo-No.525

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岩石の深層風化地帯における道路工事

岩石の深層風化地帯における道路工事

Highway construction in deep weathering areas of rocks

 リオデジャネイロ州東部、カンポス市(正式名称:カンポス ドス ゴイタカゼス市)近郊の丘陵地帯を通るブラジル国道 101 号線の改修工事現場である。 この付近の丘陵は、先カンブリア時代原生代の準片麻岩*1)や結晶片岩からなっている。 8.5 ~ 10 億年前にできたこれらの岩石は、もともとは非常に硬い岩石であるが、造岩鉱物を化学的に分解する化学的風化作用を受けて、地下深くまでブルドーザーで簡単に掘削できるほど柔らかくなっている。 このような深層風化は温度が高く水分が多い湿潤熱帯において最も顕著な現象である(参照:極地方から熱帯まで、経線に沿う風化層の厚さの変化)。 また、水がしみこみやすい割れ目(節理)の多い岩盤ほど深くまで風化が進む。 また、岩質によっても風化されやすさは異なるが、この道路切割の斜面(法面:のりめん)の場合、白い部分や赤みを帯びた部分など、岩質の違いがあるにもかかわらず、すべて完全に風化してしまっている。

*1)堆積岩が高温高圧の下で変成作用を受けてできた片麻岩で、花崗岩質岩石を起源とする正片麻岩と区別する。

1981年7月23日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-21 52 14.40, -41 33 56.58 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 191°

PanoraGeo-No.510

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花崗岩質岩石の風化とコアストーン

花崗岩質岩石の風化とコアストーン

Corestones in the deeply weathered granitoid rock

花崗岩の深層風化断面

花崗岩の深層風化断面*1)

Deep weathering profile of granite

 ブラジル北東部の小さな石切り場の崖に点々と散らばる丸みを帯びた白い岩塊はコアストーンである。 地下深くまで達する厚い風化層の中で、もとの岩石が風化されずに残ったものである。風化層の下部に行くほど増え、大きくなる(右の図参照)。 コアストーンの周りを埋めているやや色づいた部分は、コアストーンと全く同一の岩石が化学的風化を受け、スコップでも削れるくらいルーズになったサプロライトである。 日本では真砂土(マサドあるいはマサツチ)とよばれるものに相当する。 地下深部における岩盤の風化(深層風化)は、岩盤の中を縦横に走る割れ目(節理)に侵入した水や二酸化炭素が造岩鉱物を化学的に変化(加水分解など)させることによって生ずる。 したがって、割れ目に近いところは早く風化され、割れ目から遠いところはいつまでも風化されず、新鮮な硬いコアストーンとして残る。その境界はきわめてシャープである。 もちろん、この石屋さんが使うのはコアストーンで、硬いコアストーンを砕いて整形し、石垣や敷石などに使う石材をつくっている。

*1) Ruxton and Berry (1961) の原図を引用した Thomas, M. F.(1974):Tropical Geomorphology, p.85 の図を編集

1996年7月30日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-7 11 13.74, -39 19 47.06 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 340°

PanoraGeo-No.511

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厚い風化層からなる円頂丘、ハーフオレンジのロードカット

厚い風化層からなる円頂丘、ハーフオレンジのロードカット

Roadcut of round hill consisting of a thick weathering layer, 'half orange'

 ブラジルでもっとも重要な幹線道路である国道 116 号線のサンパウロ州南部区間の拡幅工事において、半球を伏せたような形の円頂丘を断ち割ってつくられた大きなロードカットである。 その断面は、すべて岩石が風化してできたルーズな物質からなっている。 そのため、掘削が容易である半面、保守は困難で、雨が降ると、この写真のように、リルができ、ガリーに拡大し、ところによっては崩壊が発生する。 厚い風化層からできたこのような形の丘のことを、地形学者は、半分に切ったオレンジになぞらえて、ハーフオレンジ、現地ブラジル語ではメイアラランジャ(Meia laranja)という。 厚い風化層(レゴリス)のうち最上部の土壌を除いた部分をサプロライト(Saprolite)というので、このような丘はサプロライトヒル(サプロライト丘)ともよばれる。

1998年7月17日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-24 25 37.64, -47 46 58.98 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 203°

PanoraGeo-No.512

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エスピリトサント州天然記念物「修道士と修道女」の岩

エスピリトサント州天然記念物「修道士と修道女」の岩

Pedras do Frade e a Freira, a natural monument of Espírito Santo State

 ブラジル南東部地方、エスピリトサント州にある花崗岩の岩山で、高い標高 683m のファラーデ(修道士)岩と低いフレイラ(修道女)岩という二つの峰からなっている。 リオデジャネイロのパンデアスーカルに代表されるボルンハルトというドーム状の岩山にはこのような変わった形のものもある。 一方、この岩山の麓、写真の右端にある緑の丘は、厚い風化層からなるハーフオレンジ(サプロライトヒル)である。 ボルンハルトとハーフオレンジは、どちらも岩盤の深層風化に関係してできた地形なので、この写真のように同じ地域に並存することが多い (参照:この写真を撮影した地域の地形図)。

1981年7月23日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-20 52 28.61, -40 57 34.61 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 273°

PanoraGeo-No.516

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ペルナンブコ州南部の円頂丘(ハーフオレンジ)とサトウキビ畑

ペルナンブコ州南部の円頂丘(ハーフオレンジ)とサトウキビ畑

Round-top hills (half oranges) and sugar cane field in southern Pernambuco

ブラジル北東部地方(ノルデステ)、ペルナンブコ州南部のサトウキビ畑は、中小河川の氾濫原のほか、オレンジを半分に切って伏せたような形から地形学者がハーフオレンジとよぶ円頂丘の連なる丘陵地にひろがっている。 この写真中央のハーフオレンジは、中腹以下が刈り取りが済んだサトウキビ畑で、頂部にはこの地方の自然植生である熱帯季節林が残っている。 水源涵養のために残すようにとの行政の要請に従ったものというが、右端の丘のように、頂上までサトウキビ畑が伸びて、坊主になったハーフオレンジも多い。 ハーフオレンジ相互の間には、平坦な谷底があり、ハーフオレンジの凸型の斜面が平坦な谷底に直接接している。 厚い透水性の風化層からできたハーフオレンジでは、雨水は地表を流れずに地中にしみ込み、丘の麓や谷底で湧き出す。 この湧水による侵食と土砂運搬がこのような地形ができる基本的プロセスである。 湧水のために湿地になる谷底ではサトウキビは栽培されないが、近年、この写真のような排水路をつくって谷底を乾かすことにより、栽培されるケースもでてきた (この場所の2012年のストリートビュー)。

1996年8月29日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-8 33 46.25, -35 12 33.84 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 160°

PanoraGeo-No.527

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ブラジル北東部海岸の丘陵地にひろがるサトウキビ畑

ブラジル北東部海岸の丘陵地にひろがるサトウキビ畑

Sugar cane fields in a hilly area on the northeastern coast of Brazil

 ペルナンブコ州南東部、大西洋沿岸には、この写真のような、頂の円い小さな丘が無数集まった丘陵地がひろがっている。 かつては大西洋森林という熱帯林に覆われていた丘陵地のほとんどが、今ではサトウキビ畑になっている。 うす緑のところはサトウキビが植わっている畑、茶色い部分はサトウキビ収穫済みの畑である。 丘の等高線に沿うような農道が多数走り、奇妙なパターンを呈している。 小さな丘は地上で見るとオレンジを半分に切って伏せたような形に見えるのでハーフオレンジとよばれる地形である。 岩石が地下深くまで風化してできた物質(サプロライト)でできているので、サプロライト丘(サプロライトヒル)ともいう。 このようなハーフオレンジが集まった丘陵地を、現地の地理研究者は「丘の海」を意味するポルトガル語でマールデモロスMar de morros)と呼んでいる。

1999年12月16日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-8 23 14.08, -35 3 45.72 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 179°

PanoraGeo-No.513

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ペルナンブコ州沿岸部、サトウキビ畑がひろがる丘陵地

ペルナンブコ州沿岸部、サトウキビ畑がひろがる丘陵地

Hills with sugarcane fields along the coast of Pernambuco

ブラジル北東部地方ペルナンブコ州海岸部南部の伝統的サトウキビ地帯では、この写真のように、丘陵も大部分サトウキビ畑になっている。 この丘陵地は深くまで風化を受け、ルーズで水を通しやすくなった物質(サプロライトあるいはマサ土)からなっている。 この写真中央やや左には、丘陵に切り込む小さな開析谷が見られる。 このような谷が切り込むことによって丘陵地は次第に細分され、多くの孤立した半球状の丘、すなわちハーフオレンジが形成される。 この写真の開析谷の両側にある頂の丸い丘は、そのような過程にあるハーフオレンジである。 この開析谷の谷底は平らで、その谷頭は平面形が半円形の円形劇場型谷頭アンフィシアター谷頭、Amphitheater headwater)という特殊な形を呈している。 この例のような透水性のサプロライトからなる丘陵地では、雨水の大部分が地表を流れずに地中に浸透、その水は丘の麓や谷底から湧き出す。 そのような湧水によって麓を削られた丘の斜面は不安定になってしばしば小さな崩壊を繰り返す。 崩落したルーズな物質は湧水や谷底を流れる水によって運び去られる。こうして平らな谷底や円形劇場型谷頭ができる。

2001年3月7日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-8 31 57.82, -35 8 13.68 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 287°

PanoraGeo-No.514

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パライバドスール川中流部の丘陵地帯

パライバドスール川中流部の丘陵地帯

Hilly area in the middle of the Paraíba do Sul River

 ハーフオレンジが密集した丘陵地、すなわちブラジルの地理研究者がマールデモロスMar de morros、「丘の海」という意味)とよぶ地形は、ブラジル東海岸沿いの広い範囲に分布しているが、この写真のパライバドスール川の流域はその代表的な地域である。写真中央を異常なほど直線的なパライバドスール川が流れ、その両岸にマールデモロスがひろがっている。 ハーフオレンジの配列にも、パライバドスール川に沿って何列も並行して並ぶような規則性がみられる。 このような河川の直線性やハーフオレンジの規則的配列は、この地域をつくる結晶質岩石(先カンブリア時代原生代後期の片麻岩)に発達する断層や節理(割れ目)の影響である。 水系網タイプとしては、格子状水系にも似てはいるが、やはり花崗岩や片麻岩地域に多い長方型(Rctangular)水系網といえる*1)。 全国的に見たマールデモロスの分布はアマゾン森林と並ぶブラジルの二大森林のひとつ、大西洋森林(マタアトランチカ)の分布にほぼ一致しているが、この森林の 90%以上は消失し、この写真のように、牧場や畑地になってしまった。 この画像に相当する地域の5万分の1地形図はこちらを参照。

*1) 地質ニュース No.86

1996年8月18日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-21 51 35.59, -42 20 26.51 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 288°

PanoraGeo-No.531

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ブラジル海岸山脈(セラドマール)の岩山(ボルンハルト)

ブラジル海岸山脈(セラドマール)の岩山(ボルンハルト)

Bornhardt in the Brazilian Coastal Range (Serra do Mar)

 リオデジャネイロ市の北方にそびえるブラジル海岸山脈(セラドマール、Serra do Mar)にあるオルガンス山脈(Serra dos Orgãos)国立公園やその周辺には、名もない巨大な岩山が多数そびえている。 写真の岩山はその一つで、テレゾポリス市の西方にある 1746m 峰。 花崗岩でできたボルンハルトである。岩壁を横方向や斜めに走る眉状の線は、岩壁の表面が板状に剥がれて落下した痕である。 周りの風化層が侵食で取り去られて岩体が空中に出ると、それまで周囲から加わっていた圧力がなくなって岩体が膨張し、岩体表面に平行な割れ目ができる (ボルンハルトの形成と崩壊の図)。 このような割れ目は剥離節理(Exfoliation joint)あるいはシーティング節理(Sheeting joint)などとよばれる。 この節理に沿って岩体から岩片が剥がれ落ちることによって、元は角張ったボルンハルトであっても見事なドームになってゆく。 また、同時に、これはボルンハルト崩壊の準備でもある(同上の図)。

1984年10月1日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-22 24 14.68, -42 59 58.15 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 273°

PanoraGeo-No.522

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リオデジャネイロ市の岩山岩壁崩落防止工事

リオデジャネイロ市の岩山岩壁崩落防止工事

Construction work to prevent the collapse of rocky walls in Rio de Janeiro

 多数の岩山(ボルンハルト)がそびえ、美しいビーチが続くリオデジャネイロ市の南部は、岩山の間のあまり広くない低地を埋めるように市街地がひろがっている。 岩山の岩壁から大きな岩片が剥離し落ちてきて、下の建物を直撃するような災害が起きている。 写真はコパカバーナビーチとイパネマビーチの間にある標高 150m あまりのカンタガーロの丘(Morro do Cantagalo)で、北面の急な岩壁には、シーティング節理がひろがって岩片が今にも落ちそうなところが何か所もあり、コンクリートの柱をつくって支えている。 この写真には見えない南面のやや緩やかな斜面は広大なファベーラ(貧民街)に占められているが、丘を登るのが大変なので高さ 64m と 48m という2段のエレベーターが建設され、住民を助けになっている。 展望台も設置されているので、訪れる観光客も多い。

1981年7月26日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-22 58 29.63, -43 12 2.50 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 130°

PanoraGeo-No.523

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ブラジル大西洋岸楯状地の侵食平野と残丘

ブラジル大西洋岸楯状地の侵食平野と残丘

Erosional plain and residual hills of the Brazilian Atlantic Shield

Climate of Itaberaba

イタベラーバの
気温と降水量
*1)

ブラジル北東部地方(ノルデステ)バイア州中東部、大西洋岸から 170㎞ 内陸で、熱帯半乾燥気候(ケッペンの高温ステップ気候 BSh、右の気候表参照)下にあるイタベラーバ市郊外のイタベラーバの岩山(Pedra de Itaberaba)である。 この付近には、始生代末期(25~30 億年前)という非常に古い地質時代の片麻岩からなる楯状地に、なだらかな侵食平野がひろがるが、ところどころにこの写真のような残丘がそびえている。 急な露岩の山腹とドーム状の頂をもったボルンハルトである。 ボルンハルトは湿潤熱帯に多いが、この例のように半乾燥地域にも、砂漠地域にも存在する。 乾燥地域のボルンハルトは、かつてあった湿潤気候の時代における岩盤の深層風化と、現在のような乾燥気候の時代における風化物質の除去という二つのプロセスによってできた2サイクル性(二輪廻性)の地形であることが多い。 すなわち、地下にできた岩山の地形(ボルンハルトの形成と崩壊の図)が、その後の乾燥気候の時代の疎らな植生と稀に降る強い雨でルーズな風化物質が洗い流され、未風化の岩体が掘り出されてできた、いわば発掘地形と言われるものである。

*1) ブラジル気象庁(INMET)資料(1981-2010年平年値)

2007年3月5日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-12 31 14.01, -40 5 50.36 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 43°

PanoraGeo-No.27

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平たいドーム状の岩山、パイマテウスの丘

平たいドーム状の岩山、パイマテウスの丘

Lajedo de Pai Mateus, a flat domed rocky mountain

Climate of Cbaceirasa

カバセイラスの
気温と降水量
*1)

 ブラジル北東部地方内陸の熱帯半乾燥気候(ケッペンの高温ステップ気候 BSh)地域にあり、ブラジルでもっとも乾燥した都市といわれるパライバ州カバセイラス市(右に気候表あり)の近郊にあるパイマテウスの丘(Lajedo de Pai Mateus)。 ブラジルではこのように扁平なドーム状の巨大な岩山をラジェード(Lajedo)とよんでいる。 気候地形学の第一人者ビューデルはこのような地形をシールドインゼルベルク(shield inserberg、楯状島状丘)とよんだ*2)。 ボルンハルトのでき始めに、頂部が地表に現れた平たい岩体(参考図:ボルンハルトの形成と崩壊の図)で、もし、湿潤気候が続いて岩盤の深層風化と地表の低下が進めばボルンハルトになり得たが、乾燥気候になったために成長が止まった、いわば、出来損ないのボルンハルトである。 かつて、この岩山を覆う風化層が存在していたことは、岩山の上に散在する大きな丸い岩塊(巨礫、boulder)が証明している。この岩塊は風化層の中にあったコアストーンだからである。

*1)Climate-data.org の climate model 1982-2012年 による。
*2)Büdel, J. (1977):Climatic Geomorphology. fig.40,41,写真39

2006年3月8日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-7 23 16.30, -36 18 8.71 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 42°

PanoraGeo-No.53

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熱帯半乾燥地域セルトンの岩山

熱帯半乾燥地域セルトンの岩山

Rocky mountains in Sertão, a semi-arid region of tropics

 ブラジル北東部地方の内陸、セルトンとよばれる熱帯半乾燥気候(ケッペンの BSh 気候)のボルボレマ高原の侵食平野には、いろいろな形の残丘がある。 写真手前の岩肌は、パイマテウスの丘という名の平べったいドーム状のシールドインゼルベルク(楯状の島状丘)の斜面である。 その上にあり今にも転がり落ちそうな丸い巨礫は、この斜面を覆っていた風化層の中にあったコアストーンである。 すなわち、この地はかつてあった湿潤気候の時代に地盤の深層風化が起こり、楯状の未風化の岩盤を基盤としてコアストーンを含む厚い風化層が形成された。 その後乾燥気候の時代になると、風化物は侵食・除去されて、楯状の岩盤が地表に現れ、大きなコアストーンがその上に残った。 パイマテウスの丘は、このような二つの異なった地形形成時代を経てつくられた二輪廻性(二サイクル性)の地形である。 遠方の丘も同様な過程を経てできたインゼルベルクであるが、元の岩盤がパイマテウスの丘のような一枚岩でなく、縦横に割れ目(節理)が走ったものであったため、このように小分けの露岩と岩塊が多数散らばる岩山になと考えられる。

2006年3月8日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-7 22 54.21, -36 17 51.42 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 342°

PanoraGeo-No.54

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インゼルベルクという名前がはじめて使われたタンザニアの残丘

インゼルベルクという名前がはじめて使われたタンザニアの残丘

Residial hills in Tanzania where the name 'Inserberg' used for the first time

Climate of Dodoma

ドドマの気温と降水量*1)

 東アフリカのタンザニア中部にあるドドマ市は、標高 1100m 前後の侵食平野が広がる高原にある。 熱帯半乾燥気候(ケッペンの高温ステップ気候 BSh)のこの地方の3月は雨季の終盤で、ドドマ市街は緑豊かである。 その郊外にそびえるシンバの丘(Simba Hill、写真右端、ライオンの丘の意)は、さながら大海に浮かぶ島のようで、まさにインゼルベルク(島状丘)そのものである。 このインゼルベルクという地形名は、19 世紀末に当時のドイツ領東アフリカ(現在のタンザニア)の地形地質を研究したドイツ人地質学者ウイルヘルム・ボルンハルト(Wilhelm Bornhardt、1864-1946)が初めて使ったものである。 後の研究者は、彼の業績を讃えるために、ドーム状のインゼルベルクのことをボルンハルトとよぶようになった。 この写真のシンバの丘は、上部に急な崖のドームがそびえ、下部にはそこから崩れ落ちた岩塊がたまった斜面があり、崩壊期のボルンハルトの特徴を示している(参照:ボルンハルトの形成と崩壊の図)。

*1)Climate-data.org の climate model 1982-2012年 による。

1986年3月31日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-6 12 14.50, +35 45 12.22 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 358°

PanoraGeo-No.524

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タンザニア、ドドマ高原のインゼルベルク、ルガーラ岩

タンザニア、ドドマ高原のインゼルベルク、ルガーラ岩

Lugala Rock, an inselberg on the Dodoma Plateau, Tanzania

 東アフリカのタンザニア、熱帯半乾燥気候下にあるドドマ市郊外の侵食平野に 点在するインゼルベルク(島状丘)のひとつ、ルガーラ岩(Lugala Rock)である。このような 基盤の(運ばれてきたものではない)複数の岩塊が高さ数mないし十数mの塔をなす地形は トア(Tor)というタイプのインゼルベルクである。 トアにはさまざまな成因のものがあるが、この写真のルガーラ岩は崩壊過程最終段階のボルンハルトの 姿(参照:ボルンハルトの形成と崩壊の図) である。この地形はコピエ(Kopje)とよばれることもある。 トアはイギリスの古英語由来の言葉、コピエはスワヒリ語などアフリカで使われている言葉で、 ともに岩塊の丘を意味している。したがってこれらは同じものと考えて差し支えない。 しかし、その岩塊のでき方を考慮して、トアは地下で深層風化を免れて できた丸みを帯びた岩塊(コアストーン)が洗い出されたもの、コピエは岩盤が地上において割れ目 (節理)が拡大して分割された岩塊の地形というように区別する専門家もいる。 この観点では、ルガーラ岩は後者に属する。

1990年12月4日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):-6 4 59.92, +35 38 14.58 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 317°

PanoraGeo-No.532

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山梨県、御嶽昇仙峡の花崗岩ドーム、覚円峰

山梨県、御嶽昇仙峡の花崗岩ドーム、覚円峰

Kakuenho, a granitic dome in Mitake-Shosenkyo, Yamanashi

 日本にも、小規模ながらボルンハルトに近いものはある。写真はそのひとつで、山梨県甲府市の北にある昇仙峡のランドマーク、覚円峰である。 昇仙峡のある関東山地南部には、熱帯ほどではないが、ある程度の深層風化を受けた新第三紀の花崗岩や花崗閃緑岩の地帯がある。 関東山地の隆起に伴って風化層が剥がされ、風化に耐えた岩体が露出したものである。谷底から頂上までの比高は約 150m ある。 ただし、侵食平野の島状丘、あるいは残丘の一種というボルンハルトの定義に照らすと、山地の一峰であるこれをボルンハルトと言うのは無理であろう。

2009年6月12日撮影  カメラの位置 (緯度,経度):+35 44 43.26, +138 34 3.42 (Google Map)  撮影方向:北から時計回り 317°

PanoraGeo-No.517

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Uploaded on August 4, 2020