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移牧とは牧畜の一形式で、季節によって家畜の飼育場所を移すものをいう。
冬は谷間の畜舎で飼い夏には高地の草原で放牧するというヨーロッパアルプスの移牧は有名である。
このほかにも世界各地で様々な形の移牧が知られているが、ブラジルのアマゾン盆地で行われているユニークな移牧(アマゾン式移牧)について知る人は多くない。
ここでの移牧は、夏・冬とか、雨季・乾季という季節ではなく、川の水位の高さ、すなわち高水期と低水期に対応して実施されるという点がユニークある。
上の画像は、そのような移牧が盛んな地域の一つであるアマゾナス州東部パリンチンス市近傍のグーグル衛星写真である。
アマゾン盆地の地形は大きく低地(氾濫原、ヴァルゼア)と台地(テラフィルメ)に分かれるが、アマゾン式移牧はこの2種の地形間での家畜の移動である。
この画像では、左端中央から来てアマゾン川に合流する茶色に濁った水のラモス川が見える。
この川より北(上)の土地はパリンチンス市街があるところを除きすべて低地で、薄い緑に見えるところが低地の牧場である。
アマゾン川の水位が下がり、低地を浅く浸している濁り水が引けば低地の牧場はさらに広くなる。
一方、ラモス川の南(下)やその合流点より下流のアマゾン川以南には台地がひろがっている。
湖のように幅広いワイクラパ川をはじめ台地地域の川は、いわゆる「黒い水」の川なので黒く写っている。
これらの川の沿岸には、台地を覆う緑の森林が伐採されて白く写った土地が無数にある。これが台地の牧場である。
アマゾン川の水位が上昇して低地の牧場が水に浸かる期間、台地の牧場に家畜を退避させる、これがアマゾン式移牧である。
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アマゾン式移牧 | 1 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
土壌が肥沃で牧草が良く生えるアマゾン氾濫原(低地、ヴァルゼア)は、牧場に適した土地であるが、アマゾン川の水位上昇に伴って水浸しになるのが最大の欠点である。
アマゾン川の水位変化は、年周期で緩やかに上昇と下降を繰り返すタイプなので、浸水といっても、日本の台風や集中豪雨のときのような切迫感はない(参考:アマゾン川水位の年変化)。
アマゾン中流部、パリンチンス市付近のアマゾン川の水位は、最低になる10~11月と最高になる5~6月とでは平均6~7m の差がある。
アマゾン氾濫原には平常の水位上昇では浸水しない自然堤防のようなところ(高ヴァルゼア)もあるが、そこも年によっては大洪水で水没するので安心できない。
写真は3月初旬のパリンチンス市郊外の氾濫原牧場で、上昇しつつある水が氾濫原の低いところに侵入し始めた。
そろそろ、牛たちを避難させなくてはならない。水に浸からない台地(テラフィルメ)に移動するアマゾン式移牧にとりかかる時期である。
2005年3月5日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-2 40 1.81, -56 42 59.01 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 91°
PanoraGeo-No.179
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アマゾン式移牧 | 2 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
現在のような移牧が一般化する前、アマゾンの農民は、増水によって低地(氾濫原)の牧場が水浸しになって使えない期間、手すりで囲んだ筏(いかだ)に牛を収容して過ごさせていた。 この筏をマロンバと呼ぶ。この期間、カナラーナなどの水草を採ってきて牛に与える。 マロンバはひろく使われていたが、1953 年の大洪水の際に多くのマロンバが流失して大きな被害が生じたことや、収容できる頭数に限りがあり、大規模化した牧畜には対応できないことなどのため、最近では少なくなった。
2002年7月31日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-3 11 1.12, -59 56 15.00 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 285°
PanoraGeo-No.180
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アマゾン式移牧 | 3 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
アマゾン川の水位が高まり低地(氾濫原)がひろく浸水し始めた3月初旬、アマゾナス州東部、パリンチンス市付近の低地の牧場の牛を、近くの支流上流にある台地(テラフィルメ)の牧場に運ぶ家畜輸送船が動き始めた。 この写真の船はかなり大型で 100 頭以上の牛を一度に運べる。牛たちは、このあと水が引いた氾濫原の牧場に戻されるまでの4カ月前後、台地の牧場で過ごす。 しかし、土地が瘦せていて牧草が豊富でない台地の牧場は牛たちにとって決して居心地の良いところではない。彼らのホームグランドは低地の牧場であり、台地の牧場は仮の宿にすぎない。
2005年3月8日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-2 44 47.00, -56 44 33.26 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 5°
PanoraGeo-No.181
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アマゾン式移牧 | 4 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
アマゾン中流部パリンチンス市付近では、移牧用の台地の牧場はアマゾン川支流を数 ㎞~数十 km 溯ったあたりの河岸に多数分散して分布している(参照:このテーマの表紙の衛星画像)。 地味が痩せていて牧草の成育が悪い台地で牛を通年放牧するには、1頭当たり1ヘクタールくらいの広大な牧場が必要と言われるが、移牧用の牧場は一時的に利用するだけなので、最小限の広さで間に合わされている。 もし、台地での通年の牧畜が行われるなら、台地の熱帯雨林の消失はこのような程度では済まないはずである。 最小限の広さの牧場は、森林にとってはありがたいが、牛たちにとっては十分な餌を貰えるかどうかの心配がある。 アマゾン川の水位の低下が遅れ、低地への帰還が遅れざるを得ない年には、牧場の草を食べ尽くした牛たちはひもじい思いをすることになる。 一刻も早く牧草の豊富な氾濫原に帰りたいと思っているに違いない。写真は、台地の牧場で今日迎えに来る船を待つために集まった、そのような牛たちである。
2003年8月5日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-2 53 9.97, -56 45 0.41 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 277°
PanoraGeo-No.183
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アマゾン式移牧 | 5 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
2002 年8月初旬、例年よりやや遅れて、4カ月余り過ごした台地の牧場から低地(アマゾン氾濫原)の牧場へ牛が運ばれて行く。 この年はアマゾン川の水位低下が遅れ、牧畜業者たちは、草を食べ尽くした台地の牛たちが餓死しないか心配していた。 小規模な移牧船には、写真のように、艀(はしけ、バージ)を汽船で押すタイプのものが多い。 アマゾンの小さな支流を渡るフェリーボートにもこの種のものが使われている。 写真右端、川の向こう岸の台地の牧場には、まだ氾濫原からのお迎えが来ないかわいそう牛たちが小さく見える。 この写真はパリンチンスよりアマゾン川を 200㎞ ほど遡った付近のものである。 このように、アマゾン式移牧はアマゾン川中流部のいたるところで行われている。
2002年8月9日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-2 47 18.23, -58 15 22.89 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 44°
PanoraGeo-No.182
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アマゾン式移牧 | 6 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
5~6月に最高になったアマゾン川の水位は7月に入ると低下し始める。 この写真はそのような時期の、パラ州西部モンテアグレ市郊外のアマゾン氾濫原である。 小屋が建っている川沿いの狭い微高地(自然堤防)などにはわずかに土が見えるようになったが、その向こうにひろがる、水草などに覆われた低い土地(後背湿地)は、まだ浸水している。 自然堤防には農家の家畜が数頭放たれているが、大規模な牧畜業者が台地に退避している牛の群れを連れて来るには、もう少し時間が必要である。
1981年7月13日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-2 0 18.67, -54 2 43.21 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 172°
PanoraGeo-No.349
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アマゾン式移牧 | 7 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
アマゾン川から分流して流れるラモス川の氾濫原で、手前の牛がいるところが自然堤防、その向こうの緑の草地が後背湿地である。 川の水位がわずかに下がり始めた8月上旬、後背湿地には水草の下に水がまだあるので、牛たちは入って行けない。 これらの牛は氾濫原が水浸しになっていた4か月ほどの間、台地(テラフィルメ)の牧場で過ごし、ここに帰ってきたばかりである。 不毛な土壌で牧草が十分にない台地での生活がいかに厳しいものであったかを、ガリガリに痩せた牛の体が物語っている。
2002年8月7日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-3 5 25.84, -57 53 58.19 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 237°
PanoraGeo-No.350
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アマゾン式移牧 | 8 /9 | 前の画像へ | 次の画像へ |
8月上旬、水が引いたアマゾン氾濫原(ヴァルゼア)の牧場へ台地(テラフィルメ)の牧場から牛たちが戻って来た。 アマゾン式移牧は、アマゾン川の高水期に浸水する氾濫原と浸水しない台地との間を季節的に家畜(牛)を移動させる牧畜形態で、アマゾン中流部の広い地域で盛んに行われている。 台地の滞在期間は4月ごろから7月ごろまでの3~4カ月間である。 アマゾン中流部の氾濫原でこのような形の牧畜が成立したのは 1950 年代で、とくに 1953 年に起きたアマゾン川の記録的大洪水の影響が大きい。 また、1960 年代をピークに衰退したジュート(黄麻)の栽培に代わるものとしてアマゾン氾濫原の牧場化が急増した。 ジュート畑の跡地はほとんど手を加えなくても、肥沃な牧場に転換できる利点があった。
2002年8月7日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-3 6 52.22, -57 53 45.72 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 121°
PanoraGeo-No.348
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ミニトリップ・イン・横浜 | 9 /9 | 前の画像へ | 目次へ |
南アメリカ大陸中央部のパンタナール湿原でもアマゾン式移牧がみられる。 世界自然遺産としても知られるパンタナールであるが、指定された保護地域は全体の2%に満たず、大部分は牧場になっている (参照:PanoraGeo-No.557:パンタナールの牧場ファゼンダ)。 アマゾン盆地の氾濫原と同様、湿原を流れるパラグアイ川などの川の水位は年周期で変動するので、高水期に牧場が浸水する時期には牛を避難させる必要がある。 そのような移牧には船を使う場合も陸路を使う場合もある。写真は、8月になり水が引いた牧場へ向かってパンタナール横断道路(トランスパンタネイラ)を進む牛の群れである。
2003年8月13日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-16 37 20.06, -56 46 7.27 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 29°
PanoraGeo-No.351
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