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最近、電気自動車が実用化されるようになったが、これまでは、車と言えば ガソリンを燃料にするガソリン車と軽油を燃料とするディーゼル車の2タイプであった。 上のグラフは、ブラジルで現在生産されている自動車を、そのような燃料別に色分けしたものである。 オレンジ色の2車種(乗用車と小型商用車)はガソリン車、茶色の4車種がディーゼル車であるが、 これらガソリン車とディーゼル車を合わせても全体の約1/4を占めるにすぎない。 残る3/4の黄緑色はフレックス車という日本には無いタイプの車である。フレックス車は、 ガソリンとアルコールのいずれでも動く車で、場合によっては両者を混合してもOKである。 これらのタイプのうち、ガソリン車の大半は輸出向けなので、ブラジルで走っている乗用車や 小型商用車の大半がフレックス車ということになる。 フレックス車が使うアルコールはエタノール(エチルアルコール)でサトウキビを原料としてつくるので バイオエタノールといわれるが、ブラジルでは単にアルコールということが多い。 サトウキビは、国土のかなりの部分が熱帯、亜熱帯のブラジルではもっともポピュラーな 作物のひとつである。それを使って車を動かそうというアイデアを実現してしまった国、 それがブラジルである。 |
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ペトロブラス PETROBRAS は、ブラジルの大手石油会社で、1997年までは
ブラジルにおける石油の開発、精製、流通などを独占する国営企業であった。
独占が解除され、国内外の企業がこの分野に参入することができるようになった今でも、
ペトロブラス社は圧倒的なシェアを維持している。
この企業による石油の開発・生産は、1980年代になって海底油田の開発が軌道に乗るまでは停滞していた
(参照:ブラジルにおける石油生産量)。それまでの原油生産は
いくつかの小規模な陸上油田でおこなわれていたが、この写真のモソロー市を本拠とするリオグランデドノルテ
油田(現地語:ポチグアル Potiguar 油田)は、最も重要な油田のひとつである
(参照:ブラジルの主な陸上油田の生産量)。
1973年、石油価格の急騰で起きた第一次オイルショックの時点のブラジルは、約8割の原油を
海外に依存せざるを得ない状況であった(参照:
ブラジルの石油海外依存率)。
このような状況下で石油需給の改善を余儀なくされたブラジルが導入した政策の一つが、
サトウキビなどを原料としてバイオエタノール(アルコール)をつくり、これを自動車燃料とすることを
目指した国家アルコール計画(プロアルコール)である。
1998年8月5日撮影-5 13 32.47, -37 20 38.78 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 172° PanoraGeo-No.480 |
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日本の焼酎に似た強くて比較的安い蒸留酒で、ブラジルの国民酒と言えるものが
ピンガ酒である。写真はレシーフェ郊外の小都市にあるピンガ酒のボトリング工場である。工場前に立つ
ピンガ酒のボトルをかたどった大きなオブジェに書かれたアグアルデンテ・デ・カーナ(Aguardente de cana)
がピンガ酒の正式の名である。アグアルデンテは「火の水」すなわちブランデー、カーナはサトウキビの
ことなので、ピンガ酒は、サトウキビから造ったブランデーである。ブドウから造る本物のアグアルデンテ
(ブランデー)よりかなり安価である。ブラジルでは、サトウキビを原料に酒(アルコール)を造ることは
古くから行われており、そのような醸造技術が確立していたことが、石油危機に際し、アルコールを
自動車の燃料に使うという省石油政策(国家アルコール計画=プロアルコール)が導入されたひとつの要因である。
1984年8月25日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-8 7 13.43, -35 19 20.14 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 127° PanoraGeo-No.482 |
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西暦1500年にブラジルの地を発見したポルトガル人は、ブラジル北東部(ノルデステ)
の海岸平野の熱帯多雨な気候と河川沿岸低地(氾濫原)の肥沃な土壌がサトウキビ栽培に最適と考え、
ここに世界一の製糖地域をつくりあげた。ポルトガル植民時代初期の16世紀から17世紀にかけてのことである。
その中心地域のひとつが、ペルナンブコ州(当時の行政区画ではペルナンブコ カピタニア)である。
写真はペルナンブコ州の州都レシーフェの南方を流れるイポジュカ川沿岸にひろがるサトウキビ畑で、
植民地時代から現在まで一貫してサトウキビの栽培が続いている。
川に接した平坦な土地が肥沃な氾濫原である。渇水期には写真のようにイポジュカ川の水面は低いが、
増水期になるとサトウキビ畑が水につかるくらいまで水位が上がり、土壌が更新され肥沃さが維持される。
サトウキビ原料のアルコールを自動車の燃料とする国家アルコール計画は、
熱帯でサトウキビ栽培の適地が広くあるブラジルの自然条件をうまく生かしたプロジェクトである。
このプロジェクトの成功により、ブラジルは、植民地時代以来はじめて、サトウキビ生産世界一の
タイトルを奪還した
(参考:主要国のサトウキビ生産量)。
2006年3月12日撮影 カメラの位置 (緯度,経度): カメラの位置 (緯度,経度):-8 23 36.90, -35 5 10.36 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 150° PanoraGeo-No.58 |
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写真下から左上へとイポジュカ川が蛇行しながら流れている。
川沿いに比較的狭い平坦な氾濫原があり、その後方に丘陵地が広がっている。
氾濫原も丘陵地も、ほとんどすべてサトウキビ畑になっている。
丘陵地は、頂が丸みを帯びた小さな丘の集まりである。このような円頂丘一つ一つは、
オレンジを半分に切って伏せたような形に見えるのでハーフオレンジとよばれるが、
サプロライトヒル(Saprolite hill)ということもある。サプロライトは、主に湿潤高温な気候と
長期に安定した地盤の下で生じた基盤岩石の厚い風化物のことで、花崗岩が深層風化
をうけてで生じた厚いマサ土などがその例である。ハーフオレンジは、そのような
ルーズな風化物の土地が侵食されてできた円頂丘で、その斜面は氾濫原ほど肥沃では
ないものの、サトウキビの栽培は十分可能である。
1984年9月21日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-8 21 4.09, -35 7 11.46 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 141° 写真中心位置:-8 24 22.72, -35 4 29.60 (Google Map) PanoraGeo-No.483 |
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ブラジル北東部地方(ノルデステ)東部の海岸地域を流れる中小河川の氾濫原は、
周囲の台地や丘陵より土壌が肥えているため、植民地時代の初期(16世紀)以降現在まで、
サトウキビ栽培の適地として利用されてきた。写真のパライバ川氾濫原もその一つで、
サトウキビ畑が一面に広がり、画面左上には高い煙突のある製糖工場が見える。
製糖工場の背後には、氾濫原より数十m高いタブレイロスtabuleirosとよばれる台地がひろがり、
その上は森林になっている(濃い緑~黒い部分)。砂質で養分に乏しい土壌のタブレイロスの上には
森林が残り、薪などを採る場所として利用されてきた。しかし、1970年代以降、
サトウキビからバイオエタノールをつくる国家アルコール計画(プロアルコール)が
始まると、タブレイロスにもサトウキビ畑が増えてきた。この写真でも、森林の向こうに見える
色の薄い部分はそのようなサトウキビ畑である。
このパライバ川をはじめ、川沿いの氾濫原が歴史的にサトウキビ栽培地となってきた
ノルデステの諸河川のことを、地理学者は「砂糖の川」(Rios-do-açúcar)
とよんでいる1)。 1) Andrade, Gilberto Osório de Oliveira; Andrade, Manuel Correia de Oliveira(1957-9): Os Rios-do-açúcar do Nordeste Oriental Vol.1-4. 2011年9月4日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 6 25.17, -34 59 25.43 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 227° PanoraGeo-No.23 |
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ブラジル北東部地方(ノルデステ)の東海岸は幅が数十キロ~100km の海岸平野
で縁取られており、そこがおもなサトウキビ栽培地域である。この海岸平野は、おもに、川沿いの氾濫原、
円頂丘が連なる丘陵地、およびタブレイロスとよばれる低い台地という三つの地形からなっている。このうち、
タブレイロス台地は農耕には向かない痩せた土地のため、熱帯季節林に覆われた林地のまま
残されてきた。
しかし、国家アルコール計画が始まった1970年代後半以降、タブレイロス台地の上にまでサトウキビ畑が
つくられるようになった。写真はアラゴアス州におけるそのようなタブレイロス台地である。平坦な台地の上は
すべてサトウキビ畑(明るい緑)になり、森林(濃い緑)は台地を樹枝状に刻む開析谷の斜面に残るだけ
である。ブラジルの東海岸沿いに北東部地方から南部地方まで続く森林は、大西洋岸森林(マタアトランチカ)と
よばれ、ブラジルではアマゾニア森林と並ぶ二大森林であったが、現在ではその90%以上が消失してしまった。
大西洋岸森林の消失に一役買ったことは、国家アルコール計画の最大の副作用である。アマゾンの森林が
このようにならないよう、これまでのブラジル政府はいろいろな施策を行ってきたが、最近の政治情勢では
これが怪しくなってきたことは、本テーマの13ページで述べるとおりである。
1996年8月18日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-10 11 29.18, -35 57 40.83 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 314° 写真中心位置:-10 1 4.87, -36 9 22.36 (Google Map) PanoraGeo-No.57 |
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ウジーナ Usina は工場を意味する一般名詞であるが、ブラジル、とくに北東部地方
(ノルデステ)では、単にウジーナと言えば製糖工場を指すことが多い。
ブラジルのほとんどのウジーナは、今日、砂糖のほかにバイオエタノール(アルコール)も生産している。
写真はアラゴアス州南部に1973年に創立された比較的新しい砂糖・アルコール工場である。
工場は大量の水を使うので、水の得やすい低地にある。工場の後ろに見える平らな高台は
タブレイロス台地で、この工場が使うサトウキビの畑は、おもにこの台地の上にひろがっている。
ただ、タブレイロスの土は砂質で養分に乏しいため、工場の生産能力に見合った量のサトウキビが
集められないこともあるという。河川沿いの氾濫原のような肥沃な土地には限りがあることが、
北東部地方においてサトウキビ生産が飛躍的に伸びない要因である。
写真の工場では、向かって左の部分がエタノール製造部門で、屋根のある背の高い蒸留塔棟と
貯蔵タンク群が見える。雨季が到来した3月初旬、工場はすでに半年にわたる操業休止期に
入ったため、煙突の煙は消え構内は閑散としている。
http://www.usinaseresta.com.br/
2007年3月3日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-9 54 38.80, -36 19 42.13 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 227° PanoraGeo-No.61 |
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国家アルコール計画が導入されたことによってサトウキビの生産が最も伸びたのは
サンパウロ州である(参照:ブラジル各州のサトウキビ生産量)。
写真はサンパウロ市の北北西約 100㎞ あまり、カンピーナス市郊外の小都市コスモポリス市(右端)付近の
サンパウロ高原である。きわめて緩やかに波打った丘陵地がひろがり、その大部分は薄緑色のサトウキビ畑
である。この付近では、20世紀前半までブームだったコーヒー畑に代わり、一時、オレンジの果樹園が増えたが、
それも1990年をピークに衰退、現在ではサトウキビ畑に変っている。
現在のサンパウロ州のサトウキビ主要栽培地帯は、この付近から北方へ、ミナスジェライス州との州境まで
ひろがっている
(参照:ブラジル南半部のサトウキビ栽培地と砂糖エタノール工場)。
この写真のようになだらかな地形と湿潤温暖な気候(大部分はケッペンのCfa気候)そして比較的肥沃な土壌、
これらがサンパウロ高原の農業生産性が高い自然的要因である。
2007年3月15日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-22 39 9.09, -46 58 36.06 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 268° 写真中心位置:-22 39 36.23, -47 9 48.21 (Google Map) PanoraGeo-No.485 |
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サンパウロ市から北西へ、ブラジリア方向に100km ほど行き低い山地を越えると、
サンパウロ縁辺盆地(Depressão Periférica)に出る。標高は500~700mあり、
サンパウロ高原の一部ではあるが、まわりより若干低いので盆地とよばれる
(参照:サンパウロ州の地形と地質)。
写真は、この縁辺盆地の主要都市カンピーナスとピラシカーバの中間付近で見られた
玄武岩の切割である。遠方の丘には薄緑のサトウキビ畑がひろがり、手前の道路脇には
製糖工場へ行くトラックが落していったサトウキビが散らかっている。
上記2都市周辺一帯は、サンパウロ高原におけるサトウキビ栽培の発祥の地ともいえる地域である。
この地方では、ミナスジェライス州のゴールドラッシュが斜陽になってきた18世紀後半に
サトウキビ栽培が始まって以降現在まで、主要産地であり続けている。その間、19世紀後半には、
コーヒー豆の代表的産地ともなった。リオデジャネイロから発して少しづつ移動してきた
コーヒー栽培は、この地域に達して飛躍的な発展を遂げたが、それは「コーヒーの土」
とも称されるテラローシャという肥沃な土壌があったからである。テラローシャは、
この写真のような玄武岩が風化してできた土壌である。縁辺盆地は基本的には
古生代の堆積岩地域であるが、このような玄武岩も各地に顔を出している。
1984年9月27日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-22 45 56.72, -47 24 24.24 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 260° PanoraGeo-No.481 |
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国家アルコール計画が始まり、1979年にはサトウキビ原料のアルコール
(バイオエタノール)で動く自動車が出はじめて間もない1981年のサンパウロ高原で、一面の
サトウキビ畑が広がっている。コーヒー栽培の波がサンパウロ州西部へ移っていったあと、
このカンピーナスを中心とする農村地帯では、残ったコーヒーのほか、綿花、オレンジ、トウモロコシなども
つくられるようになり、作物の多様化傾向がみられはじめたが、国家アルコール計画が始まった影響で、
サトウキビ単一栽培地帯の様相を呈するようになってしまった。写真はアラーラス市郊外のサトウキビ
収穫風景であるが、普通の収穫風景と違うのは、サトウキビが枯れて茶色になっていること。
これは撮影の10日ほど前(1981年7月20日夜-21日朝)にあった降霜のためである。
ブラジルの南回帰線より北で霜が降りることは滅多にないが、この降霜の時には、カンピーナス
の最低気温が ‐7.2℃、リベイロンプレートでは -8.2℃という異常な寒さであった1)。
サトウキビにも被害が出たが、コーヒーの被害は壊滅的と言えるほど大きかった。よく見ると、
遠方の丘の上のサトウキビには緑みが残っている。冷気がたまった低いところほど霜の害が
ひどかったということである。 1) Fortune, M. A.(2008):A Severudade da grande geada de 1981: uma valição por satelite em tempo real. 1981年8月2日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-22 19 22.19, -47 23 23.97 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 215° PanoraGeo-No.484 |
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ブラジル内陸部、中西部地方ゴイアス州のカンポセラード(セラード原野)に
ひろがるサトウキビ畑と比較的手入れが行き届いた牧場である。
サバナ気候下のカンポセラードは、長い乾季とラトゾルという痩せた土壌、それに加えて大消費地から遠い
などのハンディキャップのため、農業には不向きで、おもに粗放的な牧畜に利用されてきた。このサバナ地域に
農地の開発と植林を試みたセラード拠点開発計画(1975~)などの成果として、大豆をはじめとした
穀物の生産が増え、21世紀に入ってからはこのようなサトウキビ畑も増えてきた。ゴイアス州における
近年のサトウキビ栽培の伸びは著しく、2015 年以降、サンパウロ州に次ぐブラジル第二の産地となっている。
2007年8月29日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-15 6 33.02, -49 29 7.06 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 162° PanoraGeo-No.486 |
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ブラジル中西部地方ゴイアス州の9月初旬、長い乾季の終わりに近く、
方々で野焼きが行われているための煙ったい空を夕日が沈んでゆく。
遠方には木立が点在し、それを囲んでサトウキビ畑がひろがっている。その手前には、
植えたばかりのサトウキビ畑を灌漑するスプリンクラーが動いている。
ゴイアス州をはじめサトウキビ栽培の伸びが著しい中西部地方にとっての最大の弱みは、
サバナ(Aw) 気候の長く厳しい乾季である。サトウキビの収量を高めるには、乾季(5月~9月、
右の気候表参照)にこのような灌漑を行う必要がある。
サバナ気候のゴイアス州の植生としては、セラードとよばれる疎林(サバナ)が一般的であるが、
一部に、ゴイアスのマトグロッソ(Mato Grosso de Goiás)とよばれる
かなり密な森林(熱帯季節林)が島状に分布している2)。
遠くに見える木立は、そのような森林の一部がわずかに残されたものである。
ゴイアス州のサトウキビ栽培地の多くは、もともとこのような森林であって、
比較的肥沃な土壌のところに展開している。 1)ブラジル気象庁(INMET)資料(1981-2010年平年値)、 2)ブラジル地理統計院-IBGE(1977):Geografia do Brasil Vol.4 Região Centro-Oeste, p.66. 2007年8月29日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-15 0 53.45, -49 25 16.10 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 305° PanoraGeo-No.490 |
ゴイアネジアの気温と降水量1) |
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マトグロッソ台地は、ブラジルの内陸部、中西部地方マトグロッソ州の
南寄りにある標高 500~800m の台地である。アマゾン川流域とラプラタ水系パラグアイ川流域の
分水界をなし、州都クイアバ近くのギマランエス台地から東へ、州の南東端までひろがっている。
地質的には、ブラジル南部のパラナ堆積盆地の北西端部分で、古生代から新生代新第三紀まで、
さまざまな時代の地層からなり、頂の平らな堆積岩台地(シャパーダ)を呈している。
また、広義のマトグロッソ台地には、州の西部にあるパレシス台地も含まれる。近年では、
この広義のマトグロッソ台地の上に、点々と、写真のようなサトウキビ栽培地と製糖エタノール工場が
分布するようになった。
(参照:ブラジル南半部のサトウキビ栽培地と
砂糖エタノール工場)。このように、ブラジルではサトウキビ栽培地の内陸への拡大が著しいが、
これまでのところ、このマトグロッソ州中部が限界で、ここより奥地への拡大は抑止されてきた。
これは自然的限界のためではなく、人為的な限界のためである。すなわち、ブラジル政府は
サトウキビ栽培禁止地域を制定する大統領令を出して、
アマゾン森林などの貴重な生態群系がサトウキビ畑に変わるのを防いでたからである。
ところが・・・、2019年11月5日、ボルソナーロ大統領によって、この大統領令
は廃止されてしまった! 「ブラジルのトランプ」さんのこの決定、かなり重要なニュースなのに
日本ではほとんど知られていない。
2007年9月10日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-15 48 47.34, -55 14 51.36 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 337° PanoraGeo-No.493 |
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ブラジル北東部地方(ノルデステ)のパライバ州におけるサトウキビの収穫風景である。
サトウキビで糖分を含むのは茎だけで葉や穂先は不要なので、刈り取り直前にこのように火を放って
取り除くことが多い。
ノルデステにおいてこのような光景が見られるのは、乾季でサトウキビの収穫が行われる9月から翌年の
2月までである。
人口が密な地域では、サトウキビ畑の火入れによる煙害が問題になり、一般的にも土壌生物を
減らすなどして土壌劣化を促進するという環境問題が指摘されている。サンパウロ州では2002年、
サトウキビの火入れを規制する法律を施行し、それを段階的に減らす方向を打ち出した。 1)ブラジル気象庁(INMET)資料(1981-2010年平年値) 2002年1月3日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 20 47.88, -35 1 36.43 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 270° PanoraGeo-No.59 |
パライバ州、ジョアンペソアの 気温と降水量1) ケッペンのAs気候 |
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製糖工場が所有するサトウキビ畑で、製糖には不要な葉を焼いた後のサトウキビ
の刈り取りを行っている農業労働者たちで、現地では一般にボイアフリア(Boia fria)とよばれている
人たちである。ボイアフリアとは「冷たい食事」という意味である。町に住み、朝早く工場のトラックで
畑に連れてこられて働き、昼食は畑で冷えた弁当を食べるのでその名がある。彼らの父や祖父の時代
には、砂糖農園の中に狭い土地を貸し与えられて住み、畑で自給的に作物を作り、余れば町に売りに出る
という生活をしていたが、1950~60年代以降、合理化のために農園を追い出されて町に住み、農業労働者という
サラリーマン化した農民となったケースが多い。
2002年1月4日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-6 54 37.99, -35 5 11.22 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 270° PanoraGeo-No.60 |
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ブラジル北東部地方(ノルデステ)では、9月に入って製糖・エタノール工場が
操業を開始した。収穫したサトウキビを工場へ運ぶトラックが疾走する。トレミニョン(Treminhão)と
いうサトウキビ運搬用のトラックで、トレン(列車)とカミニョン(トラック)の合成語である。
列車のように長いトラックという意味であるが、ふつうはトラックとワゴン2台、計3台までである。
ここは農園内なので問題ないのかもしれないが、このようにワゴン3台をひいた長いトレミニョンが公道を走る
ことは禁止されている。遠くに見えるサトウキビは間もなく収穫されるもの、手前のサトウキビは発芽して
間もないもので、収穫までには約1年かかる。地面に敷き詰められているのはサトウキビの枯れた下葉や
穂先など糖分のない廃棄物。収穫時に燃やしてしまうことが多いが、燃やさないで、このように地面を
カバーして、水分を蓄え、土壌の有機物を補い、微生物などの繁殖を助けるのに用いたり、ボイラーで
燃やして発電に使うなど、環境にやさしい利用法が推奨されている。
2011年9月5日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 2 53.63, -34 59 9.66 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 255° PanoraGeo-No.487 |
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国家アルコール計画が始まった以降に設立されたサトウキビ加工工場には、
バイオエタノール(アルコール)製造に特化した工場(レフィナリーア Refinaria という)も多い。
写真はブラジル北東部地方(ノルデステ)のレフィナリーアのひとつである。左側の建物は、
サトウキビ置き場とその洗浄、圧搾を行う部分で、ここでつくられた砂糖水が右側の建物に流送されて、
発酵、蒸留され、エタノールができる。この工場をはじめ北東部地方の砂糖アルコール工場の操業期間は、
雨が少ないサトウキビの収穫期の9月から翌年2月頃までである。
2002年1月23日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 21 10.84, -35 1 40.89 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 252° PanoraGeo-No.49 |
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ブラジル北東部地方のアルコール専業工場(レフィナリーア)で、糖液(砂糖水)
を発酵させてエタノール(エチルアルコール)をつくる過程である。加熱された大きなタンクの中で、糖液
が泡立ってエタノールができつつある。この過程でできた濃度約 10 %のエタノールが蒸留塔に送られ、
濃縮されて濃度の高いエタノールになる。この工場では次の3種類のエタノールが製造されている。
1.含水エタノール:普通の自動車燃料として使われるもので、数%の水分の含有が許される。
これより高濃度のものにするにはコストがかかりすぎて採算が取れなくなるためである。
2.無水エタノール:ほぼ純粋なエタノールで、自動車燃料としてはガソリンに混ぜて使う。ブラジルで
売られているレギュラーガソリンには 27 %もの無水エタノールが混入されている(2015 年時点)。
そして、3.飲料(ピンガ酒)用の低濃度のエタノールで、しばらく酒蔵(右の写真)で寝かせた後、
ボトリング工場へ供給する。エタノールの発酵・蒸留の過程で、エタノール1に対し 10 あまりの廃液
(ヴィニョート)が出る。
2002年1月3日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 21 8.37, -35 1 49.59 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り - PanoraGeo-No.492 |
エタノール工場のピンガ酒の酒蔵 |
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写真左の煙突のある建物は、サトウキビからバイオエタノールを製造する工場
の心臓部ともいえるボイラー棟で、その後ろにはこのボイラーの燃料となるバガス
(サトウキビの絞りカス)が野積みされている。工場が消費する動力や電力はすべてこのプラントで賄われ、
それでも余るバガスで発電して、電力会社に売電する工場が多い。このようにバガスを工場のエネルギー源に
できる点が、サトウキビを原料としたバイオエタノールの強味で、エネルギー収支比を高いものにしている。
エネルギー収支比とは、ある燃料について、その生産のために投入したエネルギーの何倍のエネルギーが
その燃料から得られるかを示す数値で、値が大きいほど効率は良い。ブラジルのサトウキビ原料のエタノール
のエネルギー収支比は8~10 と高く、その値が 1.5 前後のアメリカ合衆国のトウモロコシ原料のエタノールを
はるかに凌いでいる。エネルギー収支比が高いことは環境への二酸化炭素負荷が低いことでもある。
もちろん、サトウキビ生産やエタノール製造の過程で若干の二酸化炭素は排出されるが、ガソリンの代わりに
エタノールを使うことで、その数倍の二酸化炭素の排出を削減できる
(参考:サトウキビ原料バイオエタノールのエネルギー収支)。
当初、石油代替策として生産が始まったブラジルのバイオエタノールは、今では環境にやさしい燃料という
長所が認められて、この国における自動車燃料の主流となっている。
2002年1月3日撮影 カメラの位置 (緯度,経度): カメラの位置 (緯度,経度):-7 21 9.95, -35 1 45.20 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 225° PanoraGeo-No.62 |
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バイオエタノール工場からは2種類の廃水が出る。一つはサトウキビの洗浄水、
もう一つはエタノールを造る時に出る廃液でヴィニョート Vinhoto と呼ばれるものである。
エタノール本体の10倍以上も出るヴィニョートは強酸性で強い悪臭を放つ。かつて、
これらの廃水が川にたれ流しされ、著しい河川汚染を起こした。それが禁じられた現在、
多くの工場はヴィニョートをサトウキビ洗浄水で薄めた上、水路(写真上)でサトウキビ畑に
導きスプリンクラーで散布している。ヴィニョートはカリ(K)分に富んでいるので肥料の節約にも
なる。初期には、水路からスプリンクラーまでの導水は、この写真のように鉄管を継ぎ足して
行っていたが、最近では、右の写真のような巨大な散水ホースリールが使われるようになり、
機動性が増した。
2004年8月8日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 19 54.30, -35 2 24.58 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 119° PanoraGeo-No.63 |
ジャイアント散水リールによるサトウキビ畑の灌漑
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カベデーロ港はパライバ州の州都ジョアンペソアの外港で、パライバ川の河口にある。
写真後方のタンク群は、ペトロブラス社が管理する石油とバイオエタノール(アルコール)の流通基地
カベデーロターミナル(TECAB)である。
船で運ばれてくる石油製品と、この地方の製糖工場から陸送されてくるアルコールを受け入れ、
それらをパライバ州一帯のガソリンスタンドなどに供給している。1973年の石油危機にあたり、
電気自動車など様々な省石油手段が考えられたなかで、バイオエタノールが導入された要因の一つは、
このように、従来からの貯蔵・流通施設をそのまま使える点であった。
ペトロブラス社は、バイオエタノールの流通に関しても主導権をもっており、国内四十数か所のこのような
流通ターミナルから全国に石油製品とバイオエタノールを供給している。
なお、手前に見えるのは、パライバ川河口を渡りカベデーロとその対岸を結ぶフェリーボート。
バスを運んでいるのではなく、廃車になったバスのボディーをボートに乗せて船室にしている。
超粗大ゴミ再利用の極致というべきか!
2007年3月10日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-6 58 13.10, -34 50 44.57 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 50° PanoraGeo-No.64 |
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アルコール車が初めて登場したのは 1979 年であるが、この年の生産は 4624 台にすぎず、
その本格的生産は1980年(25万台)からである。その年の1月には、すでに、この写真の北東部地方(ノルデステ)
の地方都市カンピナグランデのガソリンスタンドでも、アルコールの供給を受けられるようになっていた。
写真の二つの計量器の中段に書かれているように、左の ESSO ÁLCOOL がアルコール、右の ESSO COMUM
がレギュラーガソリンである(COMUM-コムン-はレギュラーの意)。アルコール計量器上部に書かれた
ÁLCOOL HIDRATADO は含水アルコールの意で、このアルコールには数 % の水分が含まれていることを示している。
そのため、アルコールはリッター当たりの走行距離がガソリンより短かく、価格は安く設定されている。
このスタンドの場合には、リッター当たり、アルコールが 1.14クルゼイロ、ガソリンが2.25クルゼイロであった
(クルゼイロはブラジルの昔の貨幣単位で、現在はレアル)。アルコールとガソリンの価格差は時期により、
場所によりかなり大きく変化する。
1980年1月13日撮影撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-7 13 10.29, -35 53 0.94 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り - PanoraGeo-No.489 |
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パウリスタ大通り(Avenida Paulista)は、サンパウロ市の中心的ビジネス街で、
銀行、報道機関、領事館をはじめ、主要企業のオフィスが集まっている。
この写真を撮影した2011年前後は、ブラジルが好景気を謳歌していた時期で、自動車生産も大いに伸びて
街には新車が溢れていた。2003年に生産が始まったフレックス車(アルコール・ガソリン両用車)の
普及は著しく、ブラジルで生産された小型車(乗用車と小型商用車)のうち、フレックス車が255万台に対して、
ガソリン車は47万台(約15%)であった。ガソリン車の大部分は輸出向け(この年の小型車輸出52万台)なので
国内で登録された小型車のほとんどはフレックス車ということになる。
(参考:ブラジルにおける自動車生産台数の推移-燃料種類別)
2011年8月25日撮影 カメラの位置 (緯度,経度):-23 33 45.11, -46 39 18.38 (Google Map) 撮影方向:北から時計回り 131° PanoraGeo-No.488 |
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